世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4197
世界経済評論IMPACT No.4197

インド・スマホ産業集積の次段階:完成品PLIから主要高度部品誘致政策へ

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員)

2026.02.09

 インドのスマートフォン産業は,完成品向けPLI(生産連動型奨励策)によって低位均衡を突破し,世界有数の生産・輸出拠点へと急成長した。しかし国産化率は約50%の水準と伸び悩んでおり,ディスプレイやカメラといった「スマホの心臓部」は,なお輸入に頼っている。インドのスマホPLIの基本スケジュールとしては,2020年5年制度として開始され,2025–26年度で終了予定である。

 本稿は,国産化率50%均衡を第1段階の「完成品国産化政策」と位置づけ,「主要高度部品」企業の誘致へと政策の重心を移す必然性を示す。インドのスマホ産業集積は今,次の段階に入った(注1)。

PLIによる完成品国産化の役割の終了:PLI制度の定量的成果

 政策効果は生産・輸出・雇用・税収のいずれでも正の成果が報告されている(2020〜2025年度:FY)。PLI自体の支出に対し,税収面の還元が大きいという評価が多い。また,特に輸出増と世界市場でのシェア向上が大きな柱になっている。

1)生産

 PLI施行後,スマホの生産額は大幅に増加した。例として,FY20の約2.1兆ルピーから,FY25に5.45兆ルピー規模まで成長した(注2)。

2)輸出

 スマホ輸出はPLI導入後に劇的に増加した。FY24までの累計輸出は推計で約2.87兆ルピー(約$34B)(注3)。FY25(2024年4月〜2025年1月)では約1.55兆ルピー($17.8B)の輸出を記録した(注4)。

3)雇用

 雇用創出効果として,直接雇用が約300,000人,間接雇用が約600,000人であり,合計で約 900,000人の雇用創出が生まれたと推計される(注5)。

4)税収・財政効果

 PLIによるFY21–FY24のインセンティブ支払い総額は約0.058兆ルピーであるが,それに対し税収や関税など政府収入への寄与は,約1.04兆ルピーと推計され,「財政的にも十分に元が取れた政策」と評価されている(注6)。また,約19倍のリターンになったという評価がある(注7)。

主要部品別・国産化率

 スマホ向けPLIは,その役割のピークは過ぎつつあり,制度としての区切りが見えてきた段階である。

 インドにおけるスマホの「主要部品」国産化については,2016年の数%から,プリント基板実装・バッテリーが顕著に拡大した(60–80%)。しかし,ディスプレイ・カメラ(中核部品)は30%前後にとどまり,全体としては約50%均衡で停滞している。

1)プリント基板実装

 2020年に約40%,2024年に約78%となった。プリント基板実装は,スマホ組立工程の中核で,かつ,周辺部品も含む工程であるため,最も早く国産化が進展した(注8)。

2)ディスプレイ

 2020年に約18%,2024年に約32%となった。モジュール組立は進展したが,パネル自体は依然として輸入に依存している(注9)。

3)カメラモジュール

 2020年に約15%,2024年に約30%となった。モジュール工程は国内生産化,CMOSセンサーは輸入に依存している。

4)バッテリー

 2020年に約45%,2024年に約60%となった。パック化・BMS工程は高い国内比率であるが,セルは輸入している(注10)。

従来のスマホ完成品向けPLIの次の「主要高度部品」企業誘致

 PLIは,2026年までの政策期限を前提としつつも,延長や移行措置が検討されている。従来のスマホ完成品向けPLIとは別に,高度な部品の国内化支援へ移行する流れが指摘されている(注11)。

 インドでは主要部品の国内調達を拡大させるために,「主要高度部品」等の国内製造を直接支援するPLIをどう改善するか議論している(注12)。国内調達条件を与え,PLIで部品現地化やコンポーネント要件を明確化する方向にある。Samsungなどは追加のインセンティブ期間を要望している。

高度部品の国内生産の支援段階

 政策支援とその手段は段階ごとに以下の成果を上げている(注13)。

第1段階(完成品PLI)

 完成品向けPLIは生産拡大を通じて組立工程を中心とする産業集積を起動させ,スマホ産業は国産化率約50%均衡の到達点に至った。

第2段階(主要高度部品)

 高度部品では,巨額の初期投資を必要とする固定費障壁が残り,産業集積は一時的に停滞している。インドは今,この50%均衡を打破し,ディスプレイやカメラといった「主要高度部品」企業を国内に呼び込む段階に入った。

 今後は,「主要高度部品」に特化した新たな支援制度によって固定費障壁を政策的に引き下げ,外国直接投資を集中的に誘導する段階にある。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4197.html)

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