世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4207
世界経済評論IMPACT No.4207

中国・低成長の原因を考える

童 適平

(獨協大学 名誉教授)

2026.02.09

 中国国家統計局の速報値によれば,2025年,中国実質GDPはかろうじて5%の成長目標値を実現した。この数値の信憑性について色々の見方があるが,いずれにしても1989年天安門事件時以来の低成長であることは紛れのない事実である。

 低成長の原因は何であろうか。25年の輸出額は前年比で6.1%も増加したことから,「トランプ関税」のような外的要因でないことが分かる。国内要因を支出から見ると,投資(GDP統計とは異なる全社会固定資産投資額)は前年比3.8%減である。前年比減は1989年の天安門事件が発生した時以来の2度目であった。一方,消費(GDP統計方法とは異なる社会消費財小売り総額)は前年比で3.7%増であった。低成長の主な原因は投資減であることが分かる。

 投資減の原因は何であろうか。まずは政策面を見てみよう。2009年から続けられてきた積極的財政政策は,「さらなる積極性」を持って続けられた。25年,財政赤字のGDP比は4%に引上げられ,政府債務上限も99兆8482.65億元と,24年の14兆9608億元の引上げに続いて,更に11兆8600億元積み増された。金融政策は,「穏健」から「適度緩和」に転換され,金利,預金準備率ともに史上最低を更新した。つまり,マクロ経済政策は大きく緩和されたと言える。

 次に資金の流れを見てみよう。実体経済が金融市場から獲得した資金を示す「社会融資規模統計」は,ストック統計(残高)とフロー統計(新規増加)がある。ストック統計(残高)では,25年,社会融資総額は前年比で8.3%増加した。このうち,銀行貸出しは6.2%増,企業債券は6%増,非金融企業株式は4%増だが,政府債券(国債と地方債を含む)は17.1%増であった。他方,フロー統計(新規増加)では(括弧内は24年の増加額との比較),社会融資総額は35兆6033億元(3兆3445億元増),銀行貸出しは15兆7104億元(9475億元減),企業債券は2兆3917億元(4825億元増),政府債券(国債と地方債を含む)は13兆8369億元(2兆5415億元増),非金融企業株式は4762億元(1863億元増)となる。

 上のデータから何が読み取れるのであろうか。24年と比べ,ストック統計(残高)もフロー統計(新規増加)も増加した。つまり,マクロ経済政策の更なる緩和により,実体経済は金融市場からより多くの資金が獲得できた。しかし,24年と比べ,25年,銀行貸出しの増加額は減少したことと銀行貸出しより政府債券(国債と地方債を含む)に,より多くの資金が流れたことも確認できた。

 これは何を意味するのであろうか。答えは24年11月9日に行われた全国人民代表大会常務委員会の記者会見にあった。記者会見で財政大臣は初めて23年までに地方政府の「隠れ債務」残高が14.3兆元あることを明らかにした。その上で,24年から連続5年間,毎年地方政府の「専項債券」発行収入から8000億元を捻出して,地方政府基金予算(特別会計)に繰り入れ,地方政府の「隠れ債務」と置き換える。同時に地方政府の債務上限を6兆元引上げ,毎年2兆元ずつ,三年間直接「隠れ債務」の処理に当てるとする「抜本的処理対策」を発表した。その狙いは,土地使用権譲渡収入の激減による地方財政の窮乏と不動産バブルの崩壊による地方政府の「融資平台(LGFV:Local Government Financing Vehicle)」の相次ぐ経営破綻から地方財政を救出することにある。

 ここで地方政府債務のおさらいをする。中国では,中央集権型の政治体制により地方自治は基本的に認められていない。鄧小平の改革開放政策では,地方政府にある程度の自主権を与えたが,根幹は中央集権である。よって地方財政は,「歳入に基づく歳出を編成する超均衡予算」を原則とし,地方政府による借金は禁止されていた。09年,「世界金融危機」による経済低迷を打開するための「四兆元投資計画」は,中央政府の投資プロジェクトはわずか1.18兆元だけであり,残りの2.82兆元の投資枠は地方政府の投資プロジェクトでその財源は地方政府が出資しなければならなかった。このため,09年と10年に,特例として地方債の発行を許可しLGFVの設立を奨励した。しかし,「四兆元の投資計画」の後の11年以降も,地方債の発行は続いた。LGFVを通しての債券発行以外にも,地方政府は,銀行借り入れ,理財商品の発行など,さまざまな方法で資金をかき集めていた。これが「地方政府債務問題」の始まりである。

 11年に政府審計署(日本の会計検査院に当たる)が行った調査によれば,10年末,全国地方政府債務残高(保証責任と救助義務のある債務を含む)は10兆7174.91億元に達した。更に,13年6月の調査では,債務残高は17兆8908.66億元に増加し中国政府を驚かせた。地方債の発行は「明確債務」であればLGFVが主役だが,累積した債務は「隠れ債務」で,その正体が把握できないことが大きなリスクである。中国政府は15年から,「隠れ債務」を「明確債務」に置き換えようと対策を講じたが,新型コロナや不動産バブルの崩壊などで,地方インフラの整備と不動産開発を主要事業とするLGFVの経営環境が一段と悪化しその対策はうまくいかなかった。地方政府の債務は投資の足かせとなり,24年の対策に至った。

 このように,目の前の経済成長を後回しにしてでも,28年までに「隠れ債務」の処理をほぼ完了(2.3兆元まで減少)させようとする政府の決意は理解する。しかし,投資低迷が低成長の原因なのか,あるいは,もともと消費が弱いため需要不足を補うために投資を増やしたのだから,弱い消費の元凶である「所得の向上」から対策を考えるのが筋なのではなかろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4207.html)

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