世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.681

私たちの知らない,中国のもう一つの顔(その2):中国No.1企業のモンゴル資源買い付け現場で起きたこと

田崎正巳

((株)STRパートナーズ 代表)

2016.08.01

 商談が一通り終わったところで,私は思い切ってその疑問を投げかけました。

 「今日はどうもありがとうございました。でも,正直申し上げて,私には一寸よく理解できない部分があります。なぜ私たちの要望を交渉もせず,すぐに受け入れたのですか? なぜ,この商談ではそんなに『気前のいい』回答が多いのですか? 何か,他意があると疑いたくなるのですが……失礼な質問で申し訳ありません」と。

 するとその代表の方は優和な顔のままで,突然英語に切り替えてこう言ったのです。

 「確かに,日本人からするとちょっとおかしいな,いつもの中国人違うなと思われるでしょうね。もしこれが日本企業やアメリカ企業との商談であれば,あなたが推測するような商談になると思いますし,私たちはもっと厳しい条件を言います」と,はっきり言いました。更にこう続けました。「では正直に申し上げましょう。私たちは中国の国営企業であり,中国共産党の指示のもとに動いています。中国共産党の大きな悩みは,国内の民族問題にあります。ウィグルやチベットでは,正直言って相当手を焼いています。そしてこれには大変なコストがかかるのです。地元への大型投資と治安維持のためのコストです」と,意外な方向に話が進みました。初めて会う民間日本人に「民族問題で手を焼いています」などと,随分正直に言うなと思いました。

 「中国共産党は長期的にこの問題を解決するには,まず第一に周辺国との融和が大切であると考えています。中国の国境は長く,国内の民族問題は周辺国との問題と表裏の関係です。なので,周辺国との友好,融和を優先して考えるように言われています」。

 「一方で,中国政府の方針では,できるだけ資源は外国から買いたいと考えています。自国の資源はなるべく使わず,将来外国から買えなくなったり,地球上に枯渇したりした時のために自国分は取っておくのです」。

 「現在,世界的に経済が困難な状況にあります。中国政府は,こういう状況だからこそできるだけ隣国のモンゴルから買える物は買いなさい。と指導しているのです。つまり隣国を助けなさいという意味です。価格も適正価格とし,値切ってはいけないと指導されています」。

 なんとなく私たちが新聞などで目にする「ちょっとわがままそうな国」「自己チューの国」というイメージとは全然違います。中国は,途上国の国々のリーダーという自負もあるのでしょう。かなり優しく,大人(たいじん)の国に見えました。なるほど,これが隣国に見せるときの中国の顔なのか。今回の話は,援助でもなければ,政府間の交渉事でもないし賄賂の話もない。全く民間同士のフェアーな商談でした。

 商談後半は「では,今日同意したことを早速合意書(メモランダム)としてまとめ,調印しましょう」と話が早いです。もし日本の会社だったら,初めての商談なら最初は様子見で「とりあえず,お互い持ち寄って検討し,次回また協議しましょう」とでも言いそうな内容なのに,トップ同士が出てきて早々に決めてしまいます。

 これでは日本が資源獲得競争で負けるのは当然でしょう。日本企業だったらモンゴルのみならず初めての会社に,しかもその親会社が変わろうという不安定な時期に,トップが訪問して即座に契約をまとめる例は一寸想像できません。

 もちろん,そのメモランダム調印後,鉱山現場の調査や品質チェックは,数か月以内に終えたいとして,その数日後にメモランダムのドラフトが送られてきてきました。先方はフォーチュン500に対し,当方は名もない新興国の小さな鉱山会社ですが,この契約がまとまれば,当然安心して生産能力を倍増,あるいはそれ以上に増やす投資の意思決定ができます。

 こうした小さな民間の話は,なかなか私たち日本人から見ることはできません。こういう商談を経験すると,確かに周辺国の企業は「中国企業はフェアーでいいな。意思決定も早いし」と信頼を寄せることにつながるでしょう。私たちが日本や欧米のマスコミを通じて知る姿と,隣国に映る中国のイメージに乖離があるのは,こうした小さな積み重ねがあるからなのではないかと思いました。我々には一方的な主張を覆さない強面の顔しか見えませんが,隣国に対しての中国は思った以上にしなやかに,したたかな表情を見せているのです。

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