世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3966
世界経済評論IMPACT No.3966

百歳のマハティール氏,次世代に平和を語る

高多理吉

(富士インターナショナルアカデミー 相談役)

2025.08.25

 マレーシアの第4代,第7代首相を務め,「アメリカにノーと言えるアジアの政治家」として,尊敬を集めてきたTun Dr. マハティール氏が,百歳を越え,このたび8月6日,九州大学名誉博士号授与式と若き高校生に世界の平和を語る講演会のため,九州大学を訪れた。

 筆者は,1983年に,マハティール氏の大著「マレー・ジレンマ(英語)」を日本語に翻訳し,福岡で講演をなさる機会に個室で,世界情勢について対話を重ねてきた経緯から,講演会に招待され,同氏の言葉に再び励まされ,平和への道のりについて思いを深めた。以下は,同氏の講演の要旨である。

 マハティール氏は長い人生の中で,多くの戦争を見てきたとし,戦争阻止のために設立された国連が,5カ国の拒否権によって,その機能を失っていることを深く憂慮していることを強調した。

 最近の事例として,国連総会でのイスラエルによるガザへのジェノサイド停戦決議が,安保理でアメリカの拒否権によって,決議案を撤廃せざるを得なかったことを挙げ,拒否権をなくさなければならないことに強い思いを抱いていると語った。

 さらに,問題点として,世界の軍備拡張競争を挙げた。

 「武器を持っている国は戦争への挑発行為を行うが,それは,軍需産業が潤うからだ。大国は戦争拡大に関心が向きがちになる。世界は今,悪い方向に向かっている。日本の平和憲法は,攻撃的な戦争はしないと明記されているが,全世界の憲法に戦争は違法であると明記してほしい。こうした世界の問題を解決する人たちとして,若い次世代の諸君に期待したい」と結んだ。

 実は,日本の次世代リーダー養成塾(事務局長:加藤暁子氏)が2018年8月に福岡県宗像市グローバル・アリーナで開催された際,筆者も傍聴し,マハティール氏と語った。次世代養成塾はコロナで中断していたが,今回のマハティール氏来日に当たり,次世代養成塾を兼ねた講演会を企画することとなった。

 前回は,「友達の国を作りなさい。仲良くなれば,互いの戦争は無くなる」と強調されたが,今回も,根底は変わらないメッセージであった。

 講演を聴講した高校生から「ポピュリズムによるリーダーについてどう思うか」という質問に対して,マハティール氏は「ポピュリズムによるリーダーは悪いリーダーであるが,残念ながら,選挙での交代を待つしかない」とした。また講演会参加者に対しては「原爆投下の歴史を学び,次世代のリーダーが戦争をなくす世界を創造してほしい」と述べた。

 散会後,筆者は,マハティール氏に「百歳を迎えられたにもかかわらず,訪日され,若い世代に熱い思いを語られたことに励まされた」と自身の思いを伝えたが,身の回りのことだけではなく,全世界を展望し,あるべき姿を考え,訴える力を秘めている百歳の同氏に,見習うべき点があることを高齢世代も再考する価値が十分にあると考える。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3966.html)

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