世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2620
世界経済評論IMPACT No.2620

入国時のPCR検査は本当に必要か?:世界中の国々に「巨大な無駄」を強要する無意味

田崎正巳

(STRパートナーズ 代表・元モンゴル国立大学 教授)

2022.08.08

 7月にモンゴル出張から戻った筆者は日本におけるコロナ関連の規制緩和の必要性を強く実感した。前掲の拙稿でも挙げた「机上で考えるだけの厚生官僚の政策」として①帰国前日の行動を縛る。②現地での日本式陰性証明書式で対応できる病院を探すことの困難さ,予約・決済の難しさ。③現地の病院に日本式陰性証明書発行を強要する無駄と愚かさである。

 とりわけ③はもっとも愚かと言えよう。

 日本式陰性証明書式を取得するため朝9時に病院で検査をした筆者は,「その日のいつか」に連絡するから,連絡あり次第病院に来るようにと言われた。夕方になって証明書を取りに来いとの連絡が入り,パスポート持参で行った。まず一般的な英語による証明書を受け取った。が,日本へ行く人は別の書類が必要なので,別のフロアーに行って書類を作成せよとのこと。受け取った英語の証明書は分かりやすく立派な様式である。これは厚生官僚にとっては「無効」だというのである。英語は簡易に書かれ,患者の情報,病院の情報,検査様式が簡潔にきちんと書かれていた。恐らくこれは日本以外の世界で受け入れられる様式なのだろう。

 別フロアーで何をするのか? 氏名のところはnameから氏名に代わっているが,書き込むのはローマ字のままである。生年月日,交付日などが日本語で書かれているが,書き込むのは英語バージョンと同じである。更に検査方法「鼻咽頭ぬぐい液」「核酸増幅検査」「陰性」にチェック✓を入れるのである。これらの転記は全て患者本人が行うのである。恐らくわけのわからない日本語書類へ転記ミスの責任は病院にはないと言いたいのであろう。ただこれだけである。わざわざ書き換えさせる必要があるのであろうか?

 病院が用意した様式ではだめだという理由がわからない。敢えて考えれば,

  • ・いい加減な病院のものは採用せず!→これであれば,そもそも転記しても意味ないから,これではない。
  • ・患者(つまり私)のためにわかりやすくした。→私にとっては,陰性であって,成田空港を無事に通過できればそれでいい。様式はどうでもいい! なので,これでもない。
  • ・成田の検査員は英語が読めない。NegativeとかPositiveの意味が分からない。→可能性としてはこれしか考えられないが,あまりにも馬鹿馬鹿しい理由である。

 この日本語の様式は当然,日本政府(厚生官僚)が作ったものであろう。これを世界中の各病院に配って(あるいは印刷してもらって)使用させる。何千枚どころか何万,何十万枚もこの様式を強要しているのである。国数で200か国? その国の中に多くの病院があるであろうから,ほとんど無数に近いだろう。

 理由は「すいません,成田の検査員はみんな英語がわからないのです。NegativeとかPositiveの意味さえ分からないのです」と言っているようなものである。いかに厚労省の官僚が馬鹿であるか,証明しているようなものである。

 翌日,成田へ到着した。私は当たり前のように「英語版だけ」を提出し,日本語版は提出しなかった。果たして,入国は許されるのであろうか?

 誰が考えてもわかる答えだが,「何の問題もなく,一瞬の躊躇もなく,一片の質問もなく」通過した。

 つまりこの日本向け様式は不要なのである。いつもは官僚組織内で巨大な無駄を楽しんでいる官僚たちである,これは世界中の国々に「巨大な無駄」を強要している証左である。

 その前に,そもそも日本独自で実施している入国時PCR検査は必要なのであろうか? 日本国内で感染者数は急増している。逆に言えば,もう海外からの感染者によって国内の感染者が増えるという原因ではなくなっているのである。国内だけで十分に感染し合っているのだ。

 こんな状況で,多くの日本訪問者,帰国者の時間を奪い,結果として「嫌なら来るな」的な鎖国を続けていては,どんどん日本だけ取り残されていく。私の友人はこの秋に欧州旅行を考えているが「え? イタリアのどこでPCR検査やるの? 日本仕様でやれる病院はどうやって探すの??」と不安がっている。1日でも検査が遅れれば,帰国便には乗れないのであるから。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2620.html)

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