世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4252
世界経済評論IMPACT No.4252

中国による台湾への武力行使がもたらす国際的コスト:もし中国が台湾を攻撃したら

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2026.03.09

 米国のドイツマーシャル財団(GMF)から刊行された『もし中国が台湾を攻撃したら』の第4章「中国による台湾への武力行使がもたらす国際的コスト」はザック・クーパー(Zack Cooper)により執筆された。ザック・クーパーは,アメリカン・エンタープライズ研究所の上級研究員で,プリンストン大学の講師でもある。以前,彼はホワイトハウスおよび国防総省のスタッフとして勤務し,さまざまな研究機関で職務を務めた経験を有する。

中国の武力行使がもたらす国際的コスト

 台湾をめぐる紛争は,中国の国際的地位や世界各国との関係にどの程度の代償(コスト)をもたらすのだろうか。国際社会からの非難だけで中国指導部が台湾に対する紛争開始を思いとどまる可能性は低いが,そのコストは決して小さくない。国内的・経済的・軍事的影響とあわせて考えた場合,国際的な代償は相当なものとなりうる。北京は国際社会において防御的な立場に追い込まれ,二国間関係のみならず,地域的・世界的なイニシアティブにも悪影響が及ぶ可能性がある。

 現在,中国がグローバル開発イニシアティブ,グローバル安全保障イニシアティブ,グローバル文明イニシアティブ,グローバル・ガバナンス・イニシアティブに多大な時間と資源を投入していることを踏まえると,台湾への武力行使は,中国共産党指導部の想定以上に高い代償を伴う事態となりかねない。本稿では,第4章を援用し,そうした潜在的な国際的コストについて検討する。

(1)歴史からの教訓

 過去の類似事例に対する国際社会の反応を振り返ることは,中国が台湾をめぐって軍事行動を起こした場合に直面しうる国際的コストを理解する手がかりとなる。近年,中国が大きな国際的反発を受けた事例としては,1989年の天安門事件と,2019年の香港における統制強化が挙げられる。さらに,本稿では,大国による武力行使として近年最大規模であったロシアの2014年および2022年のウクライナ侵攻後に生じた国際的コストも検討する。

 天安門事件や香港の事例は,将来の台湾有事を完全に説明するものではない。台湾侵攻は,これらの事例よりもはるかに大規模で暴力的なものになると考えられるため,国際的なコストも一層大きくなる可能性がある。一方で,今日の中国は過去に比べて国力が格段に強く,経済的にも世界と深く結びついているため,各国が北京に対して強硬な対応を取ることに躊躇する可能性もある。ロシアの事例は地域や当事国が異なるものの,「起こりうる対応」の幅を示すものとして参考になる。

(2)天安門事件

 1989年の天安門事件後,中国が支払った国際的コストは,近年で最も深刻なものであった。多くの国が要人往来や対話を停止し,軍事協力を凍結し,開発援助を打ち切り,技術移転を制限し,融資を停止した。米国と欧州共同体は中国への武器禁輸措置を講じたが,完全に実施されたわけではなかった。フランス,オランダ,スウェーデンは外交接触を停止し,オーストラリアなどは首脳訪問を中止した。日本は1年間,中国への援助を停止したが,地域の不安定化を避けるため中国を孤立させるべきではないとの意見も示された。世界銀行やアジア開発銀行も融資を停止したが,今日の中国は世界的な融資国となっており,同様の圧力は効きにくい。国連人権委員会も,中国の行動を法的,人道的観点から批判する文書を発表した。

(3)香港への統制強化

 香港における統制強化は天安門事件ほどの流血を伴わなかったが,「一国二制度」という枠組みを公然と踏みにじったことにより,中国は国際社会から一層の批判を受けた。特に英国は,2014~15年の香港の雨傘(アンブレラ)運動や2019~20年の逃亡犯条例改正反対運動に対する中国の対応を批判する動きを主導した。多くの国が香港への渡航注意を発出し,米国議会は制裁法を可決した。国連人権委員会も,政治候補者選別制度の撤回を求めた。

(4)ウクライナ侵攻

 ロシアのウクライナ侵攻は,近年における大国による最も破壊的な武力行使であり,同様のことを台湾に対し,中国が行使した場合の参考となりうる。国際社会はロシアに対し,個人や銀行,企業を対象とする経済制裁を中心に,外交的な制裁も実施した。ロシアは国連加盟国140か国以上から非難され,G8から排除されたほか,多くの国際機関からも資格停止を受けた。スポーツや航空分野でも制限が課され,フィンランドとスウェーデンはNATOに加盟し,ウクライナはEU加盟候補国となった。

(5)想定される国際的対応

 これらの事例を踏まえると,台湾有事に際して国際社会が検討しうる対応は多岐にわたる。二国間・多国間外交措置,国際機関による行動,中国指導層を直接標的とした措置,安全保障上の影響を伴う外交行動,中国企業の海外活動制限などが考えられる。

 小規模な衝突であれば,国際的コストは主として一部の先進国,民主主義国による限定的,一時的な外交措置にとどまり,中国共産党指導部にとって管理可能と受け止められる可能性が高い。しかし,大規模な戦争となれば状況は一変する。中国が敗北した場合,「中国の不可避的な台頭」という物語は崩れ,広範な国々が長期にわたる厳しい措置を講じる可能性がある。外交関係断絶,経済制限,資産凍結,渡航禁止,軍事協力の遮断などは,中国の長期的な安全保障環境に深刻な影響を及ぼしうる。

(6)結論

 国際的コストだけで台湾海峡における危機や紛争を抑止できる可能性は低い。北京の指導者にとっては,国内情勢の不安,経済的損失,軍事的敗北への懸念の方がより重要であろう。それでもなお,特に大規模な戦争となった場合,中国が被る国際的代償は極めて大きなものとなる。紛争が長期化し,死傷者が増え,破壊が拡大するほど,中国が直面する国際的な反応は急速にエスカレートするだろう。中国の政策決定者は,台湾海峡における軍事的選択肢を検討するにあたり,こうした国際的コストを真剣に考慮すべきである。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4252.html)

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