世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4256
世界経済評論IMPACT No.4256

迷走するトランプ関税とアジア主要国の対応

福地亜希

(公益財団法人国際通貨研究所 主任研究員)

2026.03.09

 米国連邦最高裁判所(注1)は2月20日,「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づく関税措置を違法とする判決を下した。これを受けて,トランプ政権は同日,IEEPAに基づく相互関税を終了(注2)し,代替措置として,新たに「1974年通商法」122条に基づく150日間10%の輸入関税を課す大統領令(注3)に署名した(2月24日発動)。

 「122条」に基づく10%の新関税への移行に伴い,アジア主要国に対する米国の関税率の水準は,移行前の19~20%の相互関税を下回る。実効関税率ベースでみても,ミャンマーやラオスといった米国との関税交渉が難航していた国ほど恩恵を受ける格好となっている。

トランプ政権の関税政策を巡る不透明感は続く

 IEEPAに基づく相互関税の違憲判決後も,トランプ政権の関税政策を巡る不透明感は根強い。トランプ大統領は,122条に基づく関税率の15%への引き上げを示唆しているが,実施時期は未定となっている。また,122条は「巨額かつ深刻な国際収支赤字に対処するため」の措置とされており,「深刻な国際収支赤字」とは言えない状況下での発動を巡っては,新たな訴訟リスクもある。このため,122条に基づく150日間の関税措置は,あくまで一時的措置となり,今後は,既に発動実績のある国別・品目別の関税措置への移行が進む公算が高いとみられる。具体的には,「1962年通商拡大法」232条(国家安全保障上の脅威への対応),「1974年通商法」301条(不公正な貿易慣行に対する制裁措置)(注4)のほか,不当廉売に対するアンチダンピング(Anti-dumping: AD)税や外国政府による補助金の効果を相殺する相殺関税(Countervailing Duties: CVD)などが想定される。いずれも関係機関による事前調査など発動のための要件を定めており,実際の発動までには時間を要するとみられるものの,昨年の第2次トランプ政権発足以降,既に手続きが進行しているものについては,比較的早期に発動される可能性は否定できない。

 実際,米商務省は2月24日,インド,インドネシア,ラオス産の結晶シリコン太陽光発電セルおよびモジュールに対するCVD調査(注5)と,中国,インドネシア,ベトナム産硬材合板に対するAD調査に関する肯定結果(注6)を公表した。今後,5~7月に最終結果として確定すれば,太陽光発電セル・モジュールに対しては80.67~143.30%,硬材合板に対しては最大128.66%の高関税が課される可能性がある。

アジア主要国の対応

 米国政府の関税政策を巡る不透明感が続くなか,アジア主要国は,米国との合意内容の履行について検討を迫られている。ASEAN諸国およびインドは,米国が相互関税を引き下げる条件として,米国製品の市場アクセス改善や米国からの輸入拡大など大幅な譲歩を行った。しかし,米連邦最高裁判決により交渉・合意の前提が大きく揺らぐ格好となり,継続中の交渉や既に締結された協定の国内手続きの停滞も予想される。インドと米国との間では,2月初めに枠組み合意した貿易協定の最終調整に向けて,2月23日に予定していた貿易交渉担当者による会合が延期された。今後は,トランプ政権による関税政策の行方を注視しつつ,保護主義的な関税措置が続くことを前提に,分野別の追加関税(鉄鋼・アルミニウム,自動車・同部品など)や重要鉱物のサプライチェーン構築に向けた協力などを含む自国経済全体の利益を総合的に見極めた政策対応と輸出の多角化などが取り得る選択肢として考えられる。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4256.html)

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