世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
アベノミクスの成功と失敗
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2026.02.16
円高是正,デフレ脱却での成功
高市政権の「責任ある積極財政」は,基本的に,2012年末に始まった第二次安倍政権下のアベノミクスの継承と考えられます。今後の経済政策の行方を探る上で,アベノミクスの成功と失敗の再検討は重要でしょう。アベノミクスは,大胆な金融政策,機動的な財政政策,民間投資を喚起する成長戦略といういわゆる「三本の矢」によって,デフレ脱却と経済成長トレンドの引上げを狙ったものでした。BIS(国際決済銀行)が算出する円名目実効為替レート(2020年=100)は,2012年9月の120.28から2015年6月には80.86まで下落しました。一方,GDPデフレーター(2020年=100)は,長期下落傾向にありましたが,2013年1-3月期の93.8を底に上昇に転じ,安倍政権終了時の2020年7-9月期には100.0となりました。大規模な金融緩和が功を奏し,円高是正とデフレ脱却に成功したと言えます。
経済成長トレンドを高める点では失敗
経済成長トレンドを示す潜在GDP成長率は,内閣府の推計によれば,2009年の+0.1%から2012年には+0.7%,2014年には+1.1%まで上昇したものの,そこから再び低下して2018年には+0.5%となり,その後も+0.4~0.5%で推移しています。潜在GDP成長率に対する資本投入量の寄与は2012年の−0.2%から2017年には+0.3%へと上昇しました。一方,技術進歩率を示す全要素生産性の寄与は,2012,13年の+1.2%から2017年には+0.4%へと低下しています。その後四半期データで見ると多少の変動はありましたが,直近値の2025年7-9月期には+0.4%でした。民間投資を喚起する成長戦略によって設備投資の量は増えたものの,技術進歩率を高めるような投資の質的改善は伴わなかったようです。
2012年末月と2025年末の違い
財政政策に関しては,「機動的」の意味があいまいですが,財政政策によって経済の需要・供給両面の拡大を図る一方,財源を確保し,経済成長による税収増を通じて財政状況の改善を図るということだったのではないかと思います。IMF世界経済見通しのデータベースによれば,日本の一般政府(中央・地方政府,社会保障基金の合計)財政収支のGDP比は,2009年の−9.7%から2018年には−2.5%まで赤字幅が縮小しました。コロナ禍で一旦赤字幅が拡大しましたが,その後再び縮小し,2025年にはIMFの推計では−1.3%となっています。一般政府の純債務残高のGDP比は,1991年の17.3%から2012年には144.0%まで上昇しましたが,安倍政権下で上昇ペースは鈍り,2019年には151.6%でした。コロナ禍以降低下に転じ,2025年のIMF推計では130.1%となっています。ただ,こうした財政状況の改善は,GDPデフレーターが上昇して名目GDP成長率がかさ上げされたことと,日銀が大規模な金融緩和を続け,国債利回りが低水準に維持されたことによるものと考えられます。2012年10-12月期から2025年7-9月期までの名目GDP成長率は年率2.2%であったのに対し,10年物国債利回りは2024年4月頃まで概ね1%以下で推移しました。財政政策自体が経済の需要,供給の拡大に効果があったのかは,はっきりしません。
高市政権は「積極財政」を打ち出すことで,財政政策についてアベノミクスから一歩踏み出したようです。一方,金融政策については,物価上昇が問題になっている今,アベノミクスのような大胆な金融緩和は主張していません。ただ,景気や政府財政に悪影響が出ないよう,大幅な金融引締めや急激な円高は避けたいようです。安倍政権も,政府債務GDP比の上昇を抑制する観点から,日銀に国債利回りの抑制を要請していたようでもあります。ただ,問題は第二次安倍政権の起点の2012年末と,高市政権の起点の2025年末の違いです。円高・デフレ下の2012末年には,大規模金融緩和は景気回復,デフレ脱却に効果を持ちました。一方,2025年は物価,国債利回りの上昇と円安が続き,積極財政はさらなる物価と国債利回りの上昇を招きそうです。投資促進策に経済成長トレンド引上げの効果が期待できないことは,アベノミクスの失敗が示しています。結果的に財政状況が再び悪化し,政府は「責任」を果たせず,円安に拍車がかかることにもなりかねません。
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