世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4181
世界経済評論IMPACT No.4181

米国の金融政策はどこに行くのか

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2026.01.26

パウエル議長攻撃に執拗なトランプ大統領

 FRB本部改修工事を巡る証言でパウエル議長が刑事捜査対象となったことは,「裏切者」のパウエル議長を決して許さないというトランプ大統領の思いを示しているようです。共和党員であるパウエル氏は,1期目のトランプ大統領に任命されて2018年2月にFRB議長に就任しました。トランプ大統領と確執があった民主党員であるイエレン前議長が,2015年末から行ってきた段階的利上げを継いで,就任後も利上げを続けました。利上げ過程は2019年初に終わりましたが,パウエル議長はトランプ大統領の利下げ要求にすぐに応じませんでした。一方,2020年11月の大統領選挙でトランプ大統領が敗れ,バイデン民主党政権に転じた後,2021年から物価が急騰にしたのに対して利上げは遅れがちでした。パウエル議長は2022年5月にバイデン政権によって再任された後,2024年11月の大統領選挙を前にして9月に利下げに転じました。こうしたことが,パウエル議長はトランプ大統領の意には沿わず,バイデン政権の意向には沿う行為を繰り返してきたように見え,トランプ大統領はそれを裏切りと捉えたのではないでしょうか。

実現性に乏しいFOMC見通し

 ただ,トランプ大統領がパウエル議長に対する執拗な攻撃を続ければ,パウエル議長やFRBにとって利下げをすればトランプ大統領の圧力に屈した形となり,市場の信認を失うことになりかねないため,かえって利下げをためらうでしょう。さらに,5月に任期満了を迎えるパウエル議長の後任を任命する上で混乱を招くことにもなりかねません。議会の承認を経てトランプ大統領が自らの意向に沿う人物をパウエル議長の後任につけることができたとしても,FRB内部における分権的かつボトムアップ的な金融政策の決定過程を,トランプ大統領が自らの意のままに操ることはできず,金融政策は失業率とインフレ率次第ということに,基本的に変わりはないでしょう。

 昨年12月のFOMC参加者の見通しでは,失業率は2026年末に4.4%,2027年末に4.3%と2025年末の水準からほぼ横這いのまま,インフレ率はFRBが目標とする2%に向かって徐々に低下すると予想されていました。ただ,2025年12月15日付の本コラム「2026年の米国の金融政策の行方」でも述べたように,失業率とインフレ率の間には一方が低下すると一方が上昇するというトレードオフの関係があります。その点では失業率が動かずにインフレ率が下がるというFOMC見通しの実現性は乏しいようです。したがって,そうした見通しを前提にしたFOMCの金利見通しもあてにはならず,政策金利の行方ははっきりしません。

米ドルの国際的信認の動揺

 トランプ大統領のFRBに対する圧力は,政策金利の決定に直接的に影響しないとしても,米ドルの信認を揺るがすことにはなりかねません。BISが発表している米ドルの広義実質実効為替レート(先進・新興経済両方の通貨に対する米ドルの加重平均レート)は,2020年を100としたとき,2025年11月には109.08であり,データの起点である1994年1月以来の平均値と比較すると約15%高くなっています。歴史的に見てかなり米ドル高の水準にあると言えるでしょう。一方,金価格は,2023年後半には1オンス当たり2000米ドル前後であったものが,現在は4000米ドル台後半まで急騰しています。国際的に準備通貨の一つとされる金に対する米ドルの交換レートが,急落していると捉えられます。

 これまで,米国の金融政策は失業率やインフレ率等の国内要因の安定を目標に運営されてきました。しかし,米ドルの国際的信認への配慮が求められるようになると,目標とすべき要因が増えて金融政策が複雑化することで,その行方がますますわからなくなりそうです。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4181.html)

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