世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3171
世界経済評論IMPACT No.3171

京極揚水式水力発電所と泊原子力発電所

橘川武郎

(国際大学 学長)

2023.10.30

 2023年8月,北海道電力の京極発電所と泊発電所を見学する機会があった。

 先に訪れたのは,純揚水式発電所である京極発電所。羊蹄山にほど近い虻田(あぶた)郡京極町北部の台地に上部調整池を,尻別川支流のペーぺナイ川と美比内川の合流部に京極ダムにより貯水された下部調整池を擁する。二つの調整池のあいだの総落差約400mを利用して,2台のポンプ水車・発電電動機により,最大出力40万kWの発電と,412万㎥の可変速揚水を行なっている。出力がいずれも20万kWの1号機と2号機は,2014年10月と15年11月に,相次いで営業運転を開始した。

 上部調整池は,表面アスファルト遮水壁を採用し,周囲の美しい自然を背景にして,静かなたたずまいを見せる。四角形に近い大きな摺鉢状の施設の底部の下には,漏水をチェックするための監査廊がぐるっと張り巡らされている。

 二つの調整池の中間地点にある入口からトンネルを1.5kmほど進むと,地下式の京極発電所本体が姿を現す。発電電動機と交流励磁機を組み合わせて,毎分500回転±25回転の可変速運転ができる点に特徴がある。現在のように揚水式発電所が太陽光発電の出力変動の調整用に力を発揮する時代には,この特徴は大きな意味をもつ。水車を下からメンテナンスする「ガイド弁下抜き構造」を採用し,効率性向上とコスト削減を図っていることも注目に値する。

 京極発電所見学の最後に高さ53m,長さ332.5mの京極ダムの堤頂に立って,下部調整池を見渡した。二つの川が合流している様子が,よくわかった。帰路,道路上にキタキツネが昼寝していたことも,印象的だった。

 次に訪れたのは,原子力発電所である泊発電所。訪問は3度目だが,09年12月に3号機が運転を開始してからは,初めてとなる。

 泊発電所では,東京電力・福島第一原子力発電所事故の影響で,1〜3号機のすべてが長期にわたり運転を停止している。そのこともあって,今回は,3号機の格納容器の内部に入って見学することができた。おかげで,加圧器,蒸気発生器,アニュラス(格納容器と外壁とのあいだの空間)などの加圧水型軽水炉固有の仕組みを目の当たりにすることができた。

 格納容器内の天井には2本目のスプレイが増設されていた。また,電気を使わずに酸素と結合させて水素を取り除く「静的触媒式水素再結合装置」(PAR)が5台,水素をヒーターで加熱し燃焼させる電気式水素燃焼装置「格納容器イグナイタ」が13台,それぞれ設置されていた。そのほか,浸水を防ぐ水密扉,森林火災から守る防火帯,多重化された受電ルート,バックアップ用の電源追加装置,放射線物質の拡散を抑制する放水砲,竜巻飛来物からの防護装置,蒸気発生器直接給水用高圧ポンプ,タービン動補助給水ポンプなどの安全対策装置も配備されていた。

 泊発電所では,現在,原子力規制委員会で審査中の基準津波が策定されれば,岩着支持構造の新しい防潮堤の建設をすぐに始められるよう,着々と準備を進めている。同委員会から原子炉設置変更許可を得て,出力91.2万kWの泊3号機が再稼働すれば,北海道における電源ベストミックスの構築は大きく前進する。そこへ向けて意気軒昂な取組みが重ねられていると強く実感することができた,夏の一日であった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3171.html)

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