世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
戦後レジームからの脱却:日本再興による世界貢献
(敬愛大学経済学部経営学科 教授)
2023.03.13
拝金資本主義や権威主義を超克する文明の提起
縄文時代から近代にかけて,日本で育くまれてきた文明を正しく再興できれば,日本の衰退を止められるばかりでなく,世界平和と安定に貢献できると信じるに足る理由がある。
日本の文明の礎は,1万3500年もの戦争の無い定住生活を送った縄文時代にある。負ければ奴隷か皆殺しの戦争を繰り返した大陸の諸民族とは全く異なり,縄文時代が性善説の人間観,利他主義の発想,残虐でない国民性をもたらした。日本人の平和ボケは戦後から始まったのではなく,そもそも縄文人の子孫であることによるのである。
3000年前から始まる弥生時代は,大陸から水稲を伝えた渡来人を縄文人が受容し,共生することによって弥生人が形成された。遺伝子解析から,日本の水稲は朝鮮半島経由ではなく,長江流域から渡来したことが判明している(佐藤洋一郎『稲の日本史』2002.6)。
水稲の普及と渡来人との通婚,弥生化は,北九州から東北まで広がった。国立科学博物館・神澤秀明博士が行った縄文人の人骨の遺伝子解析によると,縄文人のゲノム配列はアイヌに70%,沖縄に30%,本州四国九州に10%程度残っている。北海道は弥生化せず,続縄文文化,擦文文化と続いていたが,13世紀に樺太,カムチャツカ半島,千島列島,北海道北東沿岸の漁労採集民だったオホーツク人が南下して縄文人と混血し,アイヌが形成された(百々幸雄・東北大学名誉教授『アイヌと縄文人の骨学的研究』2015.11)。いずれにせよ,北海道から沖縄,与那国島まで,日本人は皆,縄文人の子孫である。
黄河中流域=中原は,乾いた土地を長駆する馬の交易で栄え,春秋戦国時代の群雄割拠した諸国を統一した秦始皇帝は,軍事力による治安維持,表意文字と度量衡・通貨・律令の統一および中央集権制によって統一市場を実現した。さらに漢王朝が人倫と社会関係の序列化・形式化によって社会秩序を維持する儒教の国教化によって,皇帝は律令制定と部門・地方の長官人事について独裁を行い,それぞれの部門・地域は長官の独裁によって統治するシステムが完成した。広大な統一市場の治安・秩序を維持し,諸民族と諸産業,諸文化の担い手が参集して交易するシステムが中華文明であり,今で言うプラットフォームとエコシステムである。欧州では,ローマ帝国分裂後にキリスト教はギリシャ・ローマ文明を破壊し,1000年の暗黒時代に陥った。中近東ではキリスト教を批判したイスラム教の帝国がギリシャ・ローマ文明を吸収し,地中海からインド洋,東南アジアの交易によって大発展した。その間,儒教,道教,仏教などを使い分けながら広域統一市場と治安・秩序を維持する中華文明は,皇帝が誰に代わろうと良く機能する優れたシステムとして,歴代王朝に継承され,今日でも継承されている。
中華システムの欠陥は,プラトンが論じた統治者に要求される条件を欠いていることだ。プラトンは,政治家の理知,兵士の勇気,農民の節制がバランス良く整えば正義が確立し,理想の哲人政治が実現すると論じた。孔子も同様のことを論じたが,漢王朝以降に国教化した儒教は,皇帝が周辺国や長官を,長官が官僚を,官僚が民を従わせるための秩序(治安)維持が目的なため,形式化する。そのため,王朝が傾くと社会は徹底的に混乱し,殺戮や略奪が横行した。前漢最盛期に6000万人近く居た戸籍登録人口は,前漢滅亡後に再興した後漢では2000万人に激減し,黄巾の乱で後漢が滅亡すると,40〜60年後の魏,呉,蜀の戸籍登録人口はそれぞれ443万人,230万人,94万人,合計767万人に激減した(加藤徹『貝と羊の中国人』第4章「人口から見た中国史」)。
秦や前漢,後漢の滅亡時,多くの有力氏族は周辺地域へ移動したと思われ,朝鮮半島にも多くの漢人が移住した。百済に居た始皇帝の末裔と称する弓月君が,120県の民を率いて来朝し,帰化した。漢王朝の末裔と称する漢氏も帰化している。割拠していた倭国を大和朝廷が統一する過程で,漢字,律令制,儒教,仏教,土木建築技術,養蚕機織,医学などを伝える渡来人を受容し,渡来人は帰化して共生し,大和朝廷の統一に助力した。土木技術によって灌漑用水を掘って水田を開墾し,残土で古墳を作った。国家の統一は武力による征服ではなく,出雲は国譲りし,諸国は姻戚関係を結び,より高度な文明を受容することで律令国家が成立した。渡来人は自然に恵まれ,縄文文化を継承して性善説の人間観で渡来人を受容する日本を愛したに違いない。渡来人は,日本が大陸の王朝に征服されないよう,日本も律令制や殖産興業で国力を強めるよう願って文明を伝えたに違いない。
千葉県山武郡横芝光町の古墳からは,山高帽を被り,みずら(もみあげ)と髭を蓄えた人物埴輪はユダヤ人だという説を,田中英道東北大学名誉教授が提起している(田中英道『ユダヤ人埴輪があった』2019.12)。国家や祭壇を奪われて離散したユダヤ人が,日本に安住の地を見出したとすれば,ユダヤ教の神,ヤハフェと天御仲主(アメノミナカヌシ)は同じ神かも知れない。モーゼはエジプトを出て苦難の放浪の中で神の声を聞いたので,約束の地を得る為に神との契約を厳格に守ることを命じられたが,縄文人の子孫が聞いた神の声は,他人の幸福のために勤労せよだったのかもしれない。
負ければ奴隷か皆殺しの歴史を繰り返した大陸では,ギリシャもローマも奴隷制社会だった。労働は奴隷に課して自由な時間を得たギリシャ市民は,哲学,科学,芸術を発展させたが,勤労は蔑んでいた。そうした当時の大陸の文化は,旧約聖書「創世記」にも反映されている。創造主の神は,アダムの孤独を憐れみ,アダムの肋骨からイブを作って与えた。イブは悪魔の誘惑に負け,禁断(知恵)の実を食べ,アダムにも勧め,アダムも食べてしまった。神は二人に罰として楽園を追放し,食べる為には労働を課した。これは,当時の奴隷制社会の労働観を反映し,女性観を規定している。
つまり,モーゼが聞いた神の言葉は,同時の社会の現実の上にモーゼが理解した内容が言語化されたのであって,宇宙,地球,生命と人類に普遍的な真実だとは言えないのである。そうした制約のある旧約聖書を共有するユダヤ教,キリスト教,イスラム教は,歴史上,しばしば信仰を理由に異教徒を殺す戦争を起こしている。そして,フェミニズムやジェンダーフリーといった欧米で吹き荒れている運動は,旧約聖書を経典とする信者の課題であって,日本人がそれをコピーした運動をするのは,単なる西洋かぶれで的外れである。儒教を統治ノウハウとして高めた朱子学でも女性を男性に従属させる思想があるから,日本で男女平等を主張するなら,少なくとも欧米とは異なる言葉や概念が必要だろう。
ユダヤ教,キリスト教には,神との契約を厳格に守る人間には,神の祝福が与えられ,神に代わって世界を支配することが許されるという「人間中心主義」がある。また,神と契約をしていない異教徒は,奴隷にするなり何なりと許されていた。
モンゴル帝国が大陸を横断する広大な統一市場を形成し,交易が大発展した結果,東方の物産に対する欧州の欲望と関心が高まった。イタリアから始まった科学・芸術の復興運動,ルネサンスによって1000年の暗黒時代は終わり,科学技術が急速に発展し,「大航海時代」を招来し,産業革命を経て植民地主義時代となった。日本は,欧米帝国主義に対抗するため明治維新を行ったが,この時,日本の哲学的支柱となっていた神道,儒教などの漢籍,仏教のうち,神道と欧米文化を結合した立憲君主制とし,帝国主義に対抗するため帝国主義化したが,漢籍と仏教を軽んじたことが間違いだったという伊藤貫氏の見解に賛成する。鎖国による科学技術の遅れが,道を見失わせたと言えるだろう。
アメリカは日本との戦争を通じて,日本人の忠誠心や献身に恐怖し,無差別大量殺戮の戦略爆撃と原爆への復讐心を切除するため,6年8ヶ月の占領期間中,20万人の公職追放と後任への協力者配置,書信・報道出版の検閲,昭和3〜20年に刊行された出版物のうち7,769点の没収・処分(焚書),ラジオ放送「真相はこうだ」による「政府は国民を裏切り,軍部は残虐にアジアを侵略した」という宣伝を行った。これによって戦後生まれ世代,特に高学歴エリートの意識から先人への敬意と感謝は切除された。「今だけ,金だけ,自分だけ」という意識が蔓延し,自信と覇気が失われた根本原因である。
欧米も,人間中心主義が科学技術の進歩によって助長されている。自然破壊は反省して環境保護運動が起き,植民地は独立したが,プラトンが論じた理知や勇気,節制が軽んじられ,富や自由への渇望だけが追求されて,寡頭制と衆愚制に陥っている。センサーとA Iによって人間は神の領域に近づいたという万能感が一部の人間に生じている。そして,神と契約した者だけが神に祝福されるという思想や労働観が,戦争や所得格差の拡大,食と健康を命と切り離して市場化する営みが止まらない問題を起こしている。
日本の縄文・弥生以来の利他主義,需要と共生の文化,LGBTQが宗教的禁忌でなかったことや,イザナギとイザナミに見られる男女観の先進性を再認識し,怒り,憎しみ,貪り,狂信,差別心が絶えない一神教徒や権威主義者たちの文明を脱し,超克するよう呼びかけるべきだと思う。
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