世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2375
世界経済評論IMPACT No.2375

中芯国際の3大新規投資:ファウンドリー世界第3位の“野望”は実現できるか?

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2021.12.27

(1)SMICの野望

 2021年11月12日に,中芯国際集成電路製造有限公司(SMIC)は1000億人民元以上を投入し,上海,北京,深圳で3つのウエハー工場を建設すると発表した。SMICの上層部によると,この工場の建設により2022年には12インチの半導体チップの生産能力は現状(月産12万枚)から2倍増(月産24万枚)を加えることになる。この3つの工場の概要は次のようである。

1)深圳工場

 中国国策ファンドである国家集成電路産業投資基金の2号ファンドから5.13億ドルをSMICに提供し,線幅28nm(ナノメートル)と22nm成熟製造プロセスの12インチウエハー工場を建設し,月産4万枚,深圳工場の建設は既存の工場建屋を利用するため,2022年下半期には量産に入ることができるという。

2)上海工場

 SMICの出資比率は66.45%,上海市政府系投資会社の海臨微が16.78%,国策ファンドである国家集成電路産業投資基金の2号ファンドが16.77%であり,上海臨海区に数十億ドルを投資し,線幅28nmと22nmの成熟製造プロセスの12インチウエハー工場を建設し,月産10万枚を予定する。

3)北京工場

 SMIC,亦荘国際,国家集成電路産業投資基金の2号ファンドおよびいくつかの国有企業が「中芯京城」に投資し,線幅28nmと22nmの成熟製造プロセスの12インチウエハー工場を建設。月産10万枚を予定する。

 現在(2021年第3四半期),世界のファウンドリー(半導体受託生産)ビジネスのトップ5の市場シェアはTSMC(53.1%),サムスン(17.1%),聯華電子(UMC)(7.2%),グローバルファウンドリーリズ(GF)(6.1%),SMIC(5.3%)となっている。この計画の実施によって,現在,SMICは世界第5位のファウンドリー企業から世界第3位に躍進する“野望”を抱いている。この月産24万枚の増産という“野望”の成否はわからないが,業界は注視している。また,この計画によりSMICは最先端のウエハー開発重視から市場シェア拡大重視路線に舵を切ったことが予測できる。

(2)エンティティー・リストによる制裁

 “野望”の成否については,前著で述べたように(参考文献を参照),アメリカのエンティティー・リストによる制裁がSMICの事業計画の障害になっていることがあげられる。SMICは中国軍関係との取引があることから,アメリカの国防総省からエンティティー・リストにおける制裁の対象になっている。このため,最先端の線幅5nmウエハー製造に欠かすことができないEUV(極紫外線ソグラフ)をオランダのASMLからSMICは調達できなくなっている。その後,バイデン政権は新たに管制禁止令を発表し,成熟プロセスの28nmウエハー製造に必要とするDUV(深紫外線リソグラフ)も,SMICへの輸出管制の対象にした。この3つのウエハー工場を建設しても,SMICがDUVを入手できない場合,これらの“野望”の実現は疑問視されるであろう。

 また,SMICの2021年の上半期財務報告書(6月30日まで)によると,研究開発人員は1785人で,昨年同期の2419人と比べて634人減(26.2%減)となっている。研究開発人員の給与は2.3億人民元で,昨年同期は3.26億人民元である。研究開発人員の平均給与は12.9万人民元で,昨年同期は13.5万人民元であり,いずれも減少が見て取れる。現在の月産12万枚ウエハーから2倍増の生産能力の拡張を図るのに,逆に人員減で対応できるのかというという疑問に行きあたる。

 さらに近年,中国は電力不足と水不足に悩まされている。ウエハー工場は「電力喰いマンモス」と「水喰いマンモス」という製造過程に電力と水を大量に消費することで知られており,この点も“野望”の実現が疑問視される点だ。

 2016年から2020年における世界半導体の生産高,中国の半導体輸入高および中国の半導体の輸入比率は次のようである(WSTS(世界半導体市場統計)のデータによる)。2016年はそれぞれ3524億ドル,2669億ドルおよび75.7%。2017年は4291億ドル,2604億ドルおよび60.7%。2018年は4858億ドル,3121億ドルおよび64.2%。2019年は4251億ドル,3056億ドルおよび71.9%。2020年は442億ドル,3500億ドルおよび78.8%である。確かに,中国の半導体の輸入比率は大変高い。中国の国内生産率は供給の僅か15%である。中国は半導体の自給自足を急ぎ,「中国製造2025」で半導体自給率の向上の実現のために,1000億ドル規模を投資している。これも冒頭で述べた中国政府基金をSMICに提供し,半導体の生産能力を向上させる“野望”である。

 中国の高い半導体輸入比率は,全てが中国で消費されるのではなく,「世界の工場」として半導体を輸入し,製品(パソコンやスマートフォンなど)などに組立され,世界に輸出することを意味している。半導体の調達は外資系民間企業であり,中国政府ではない。仮にSMICが半導体の増産ができても,エンティティー・リストの制裁下では,外資系企業はSMICから調達することは難しい。ファウンドリーは主にはロジック半導体のASIC(特殊用IC)を製造し,半導体設計担当のファブレス企業(デザインハウス)が顧客(製品製造企業)からの依頼で設計し,ファウンドリーに受注生産のものである。DRAMなどメモリー半導体(汎用型)のように量産化部品を購入するものではない。

 確かにここ数年,中国産EV(電動自動車)が急速に発展し,車載半導体の需要が急速に増えているが,SMICの今まで線幅28nmと22nmの成熟製造プロセスの12インチウエハー工場の生産能力の2倍増を需要が吸収しきれるのかという疑問がある。

 近年,米中貿易戦争や中国の人件費など諸費用の高騰によって,鴻海(ホンハイ),緯創資通(ウィストロン)などの台湾系組立企業は,組立基地を東南アジア(ベトナム)や南アジア(インド)に移転するようになった。そのために,今後における半導体の輸入比率は低下すると予測される。

 過去において,中国政府は太陽電池パネル,液晶パネルなどに莫大な資金を提供し,生産能力を向上し,世界における主導権を掌握するようになった。その結果,これらの業界に価格が急速に低下し,外資系製造企業はもちろん,中国で資金提供を受けた企業も採算割れに倒産したものもあった。この半導体の生産能力の大幅増は,同じような轍を踏むではないかと関係者も注目している。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2375.html)

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