世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
2025年を総括する北朝鮮:5か年計画の達成と次期党大会への布石
(国際貿易投資研究所 客員研究員・亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)
2025.12.22
北朝鮮は,今年の政策運営を総括するとともに,来年(2026年)の政策的方向性を定める重要な場として,金正恩(キム・ジョンウン)総書記出席のもと,12月9日から11日にかけて朝鮮労働党第8期第13回全員会議を開催した。
2025年の総括と2026年の課題
今次会議における最大の焦点は,「国家経済発展5か年計画」(2021~2025年)の目標が達成されたことが公式に表明された点である。北朝鮮は,2021年1月に開催された第8回朝鮮労働党大会において,「自力更生」「自給自足」を基盤とする同計画を提起し,制裁下における経済再建に取り組んできた。とりわけ2025年は,翌年初頭に予定される第9回党大会を成功裏に迎えるため,「労力的成果」を誇示するべく,全国的な「増産闘争」が展開された年であった。金正恩総書記は,今次会議で「今年の事業に対する総評は,加速化した前進速度と倍増した自生力である」と述べ,主要工業部門が持続的な増産・節約闘争を通じて上方修正された生産計画を,責任をもって遂行したこと,また農業部門においても前年を上回る穀物収穫高を記録し,多数の重要建設事業を完工したことを挙げた。そのうえで,「今年の経済発展目標の達成とともに,5か年計画全体が完遂された」と強調した。
特に金正恩総書記が「重大な成果」として特筆したのは,昨年1月の最高人民会議第14期第10回会議で提起された「地方発展20×10政策」の進展である。この政策は,今後10年間にわたって毎年20か所の市・郡に消費財関連の工場を建設することを柱としており,金正恩総書記はその実施状況について,「人民の理想と福利の実現において誇るべき成果を収め,国家の同時的・均衡的発展を遺憾なく誇示した」と述べ,高く評価した。
さらに金正恩総書記は,2026年に向けた主要課題として,農業改革と地方振興の一層の加速を掲げた。農業改革については,近年,小麦や大麦の栽培面積拡大を通じて,従来のトウモロコシやジャガイモ中心の食生活を,コメや小麦を基軸とする主食構造への転換に取り組んでいる。また,個人の能力や実績に応じて報酬を配分する「社会主義的分配原則」の普及と徹底を繰り返し強調し,勤労意欲の向上を図る姿勢を示した。加えて,「西海岸の干拓地農場のうち,新たに組織された農場や最も立ち遅れた農場を,農村発展の新たな変革像を象徴する現代的かつ文明的な農村へと改編する」必要性を強調した。
一方,地方振興については,「地方発展20×10政策」に基づき,2026年の対象となる20か所の市・郡が確定し,全会一致で承認された。とりわけ注目されるのは,金総書記が炭鉱地域に言及し,「炭鉱村の生活環境や生活文化,さらには石炭生産現場に対する人々の認識そのものを改めなければ,国家の工業発展や自立的経済発展を構想することはできない」と指摘した点である。そのうえで,「炭鉱地域の改編を目的とする新たな戦線を追加的に展開することは,国家の展望的発展に向け,現段階で我々に課せられた重大な課題である」と述べ,地方振興策の射程を一段と拡張する意向を明確にした。
2026年の北朝鮮:「自力更生」路線の深化
北朝鮮は,2021年1月に開催された第8回党大会において,「社会主義の全面的発展」の実現を掲げた。これは,国土の同時的かつ均衡的な発展を目標に,発展が遅れているとされる地方や農村の開発を通じて「理想社会」や「理想郷」の建設を目指す構想である。この方針に基づき,金正恩総書記は同年4月に開催された青年同盟第10回大会に贈った書簡において,「今後15年ほどをかけて全人民が幸福を享受できる,隆盛繁栄する社会主義強国の建設を目指す」と述べ,2030年代中盤を見据えた中長期的な目標を提示した。そのうえで,「自力更生」路線を経済発展の軸に据え,制裁下でも経済を成長させる強固な意向を示している。
この文脈において,第8回党大会で策定された「国家経済発展5か年計画」は,「社会主義の全面的発展に向けた最初の段階における開拓闘争,変革闘争」と位置づけられた。さらに,来年初頭に予定される第9回党大会では,「第2次5か年計画」(2026年~2030年)の実施が予告されており,これに基づく方向性が示されることが見込まれている。こうした流れを踏まえると,北朝鮮は2026年において,地方・農村振興を柱とする経済建設を一層加速させるものと予測される。特に,住宅建設を中心とした都市整備や,工場建設など生産誘発効果の大きい建設分野に大規模に注力する可能性が高い。制裁下で外需の拡大が困難な状況において,建設分野への公共投資を通じて内需を喚起し,経済の再建を図る姿勢が鮮明である。すでに当局は,病院やその他の保健医療施設,大規模な温室農場,農村住宅,海岸養殖場,海岸リゾート,文化娯楽施設などの建設計画を具体的に打ち出しており,今後の進展が注目される。
また,金正恩総書記は,今次会議において,ロシア・クルスク州への派兵を振り返り,「過去1年間,我が軍隊の各兵種部隊が海外軍事作戦に派遣され,成し遂げた赫々たる戦果は,百戦百勝の軍隊,国際的正義の真の守護者として我が軍隊と国家の名声を世界に誇示した」と述べ,派遣軍の功績とロシアとの関係強化を高く評価した。その一方で,今年に入ってから金正恩総書記は「自生自決の革命精神」や「自生力の威力」という言葉を強調するようになった。これらの表現は,従来の「自力更生」路線をさらに強化し,対外依存を極力排除するアウタルキー的経済構造を一層推進する意図を示唆している。加えて今次会議では,米韓などに対する挑発的,威嚇的な言動は見受けられなかった。これらのことから,北朝鮮が最大の後ろ盾であるロシアの将来的な支援の継続に対し,不安と警戒を抱いている状況も透けてみえる。
金正恩総書記は,第9回党大会の招集に先立ち,未完成の建設プロジェクトの完工,次期5か年計画の目標の提出,ならびに各部門における規律と秩序の確立を指示した。これらの動きに基づくと,2026年の北朝鮮は,新たな5か年計画のもとで,建設部門のさらなる拡大を推進し,経済を中心とした内政課題に一段と注力していく展望にあるといえる。
関連記事
上澤宏之
-
[No.3875 2025.06.16 ]
-
[No.3852 2025.06.02 ]
-
[No.2958 2023.05.22 ]
最新のコラム
-
New! [No.4141 2025.12.22 ]
-
New! [No.4140 2025.12.22 ]
-
New! [No.4139 2025.12.22 ]
-
New! [No.4138 2025.12.22 ]
-
New! [No.4137 2025.12.22 ]
世界経済評論IMPACT 記事検索
おすすめの本〈 広告 〉
-
高収益経営とアントレプレナーシップ:東燃中原延平・伸之の軌跡
本体価格:3,900円+税 2025年11月
文眞堂 -
サービス産業の国際戦略提携:1976~2022:テキストマイニングと事例で読み解くダイナミズム
本体価格:4,000円+税 2025年8月
文眞堂 -
国際マーケティングの補助線
本体価格:2,700円+税 2025年9月
文眞堂 -
ルビーはなぜ赤いのか?:川野教授の宝石学講座
本体価格:2,500円+税
文眞堂 -
揺らぐサムスン共和国:米中対立の狭間で苦悩する巨大財閥
本体価格:2,700円+税 2025年12月
文眞堂 -
これさえ読めばすべてわかるアセットマネジメントの教科書
本体価格:2,900円+税 2025年9月
文眞堂 -
中国鉄鋼業:生産システム,企業,産業の三層構造と産業政策
本体価格:4,000円+税 2025年8月
文眞堂 -
DEIBにおける経営倫理とCSRの役割:障害者雇用と女性、LGBT、がん患者の方々に焦点を当てて
本体価格:2,700円+税 2025年10月
文眞堂 -
グローバルサウス入門:「南」の論理で読み解く多極世界
本体価格:2,200円+税 2025年9月
文眞堂