世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1870
世界経済評論IMPACT No.1870

“7G”デジタル・クラスター形成:中国「新型インフラ建設」による視点から

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員・放送大学 客員教授)

2020.09.07

「二つの百年」の奮闘目標は,中国共産党創立100年までの2021年の小康社会完成と新中国成立100年までの2049年の近代的社会主義強国の実現である(北京2020年5月15日発新華社張業遂全人代外事委主任委員)。

米中の覇権争いにおけるクラスターの形成

 新型コロナの対策は,「三密」を作らない,つまりクラスターを作らないことである。産業の「集積理論」は,地域開発のためにいかにクラスターを形成するかを追求してきた。ここで,クラスターとは,藤田(2003)によれば,産業集積を形成し,そこでイノベーションを活性化することである。

 クラスターという言葉は,現在は悪の代名詞と化しているが,新型コロナ後の世界は環境配慮の次世代デジタル・クラスターがカギとなる。そこで,世界経済の覇権を争う中国が,第4次産業革命の覇権競いで「新型インフラ建設」の形成を目指している(朽木(2020)参照)。

空間経済学クラスターの形成の「広義の輸送費」に関する条件

 クラスターの形成を防ぐ方策は,佐藤など(2011)の空間経済学の結論の1つ「輸送費の低下は都市集積をもたらす」(4ページ)から明らかである。つまり,集積条件とは逆に集積しないレベル(閾値)に輸送費を高くすることである。極端な政策としては,交通をストップし,外出禁止のロックダウンをすることである。これにより,検査陽性のコロナ保持者を隔離すれば感染を完全に防ぐことができる。しかし,この問題点は,輸送のストップにより経済の循環もストップする。

 ところで,中国の2020年5月の全国人民代表者会議の『政府活動報告』では,産業政策の「中国製造2025」が消えた。次世代デジタル産業育成のための「新型インフラ建設」が成長戦略の軸となった。つまり,いわゆるIoT,AI,5Gなどのデジタル経済育成のための「新型インフラ建設」である。これにより次世代デジタル・クラスターを形成することに変わりない。

 国家の重要な3大クラスター地域として,北京と天津を含む「京津冀協同発展」,「広東・香港・マカオ大ベイエリア」の建設,「長江デルタ」地域が点としてある。その3点から面へ一体とした「ネットワーク化」を目指す。

生態学の「階層性ヒエラルキー」の導入の必要:「水の循環」の成立

 新型コロナが警告した点は,産業集積は「エコシステム(生態系)」の下で持続可能であることである。生態学の教科書が,生態系の1つとして「階層性ヒエラルキー」を説明する(Odum and Barrett(2005)など)。階層性ヒエラルキーとは,低いレベルから高いレベルへ「ヒト(生物),ヒト集団,群(集積),生態系」と並ぶ。そして,生態系の維持の下で「群(集積)」のレベルで産業集積が形成される。

 しかし,産業集積は,エコシステムの下位にあり,生態系を守りつつ形成されなければ持続性がない。山,川,海,空での「水の循環」が保たれなければならない。地球では,急速な経済発展によりこの循環が崩れる開発が進み,エコシステムが崩壊しつつあった。生態系の崩壊により,新型ウイルスが誕生する余地ができたという考え方が生物学者などにある(例として山極寿一,NHK BS1スペシャル,2020年5月23日)。かつては,環境対策は政府の役割であったが,最近はESGなど商業的な採算に合い,ビジネスになる。

環境配慮の次世代デジタル・クラスター構築のための「新型インフラ建設」

 日本に関する「新型インフラ建設」のための提言として,福岡―大阪―東京-札幌間の「(空間経済学の広義の)輸送費」の削減のために,

  • ①7G向けの情報インフラの建設
  • ②リニアモーターカーの早期完成
  • ③全国空港の世界とのLCCのリンクのためのターミナル整備

がある。

 これにより,「福岡―大阪―東京-札幌」一体とした“7G”デジタル「ネットワーク」型クラスターを全日本で形成する。ポスト安倍において,これが日本の成長戦略に残されたGAFAとの競争に生き残る道である。

[参考文献]
  • 朽木昭文(2020)「中国の『一帯一路建設』,『環境配慮』の産業クラスター網によるサプライチェーン形成」『日中経協ジャーナル』,9月号。
  • 佐藤泰裕・田渕隆俊・山本和博(2011)『空間経済学』,有斐閣。
  • 藤田昌久(2003)「空間経済学の視点から見た産業クラスター政策の意義と課題」『日本の産業クラスター戦略』,(石倉洋子,藤田昌久,前田昇,金井一,山崎朗編),有斐閣。
  • 藩教峰・万勁波(2020年4月20日),「論説・新型インフラ建設で世代間の飛躍をどう実現するか」『眺望』第16号。
  • Odum, E. P. and G. W. Garrett (2005) Fundamentals of Ecology (Fifth Edition), Thomson Brooks/Cole.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1870.html)

関連記事

朽木昭文

最新のコラム