世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.993

日本企業の新たな価値創造モデル“Japan as only one”

武者陵司

(武者リサーチ 代表)

2018.01.15

Number one からOnly oneへ

 日本企業の収益力は,世界新環境(地政学,新技術と産業革命,グローバリゼーション)に完全に適合するビジネスモデルの完成により,飛躍的に高まっている。新ビジネスモデルは国際分業上での日本の立場を大きく有利にし,利益率の向上をもたらしている。

 日本の企業収益が劇的な上昇を続けている。直近の企業収益は,営業利益対GDP比11.9%で過去最高となっている。また日銀短観による製造業大企業の経常利益率は,2017年度は8.11%と予想され,それはバブル景気のピーク1989年度(5.75%),リーマンショック直前のピーク2006年度(6.76%)を大きく上回るものである。名目GDPはここ20数年ほぼ500兆円で横ばいであったにも関わらず,企業収益が顕著な増加を見せているのはなぜか。

“Japan as only one”

 それは日本企業のビジネスモデルの大転換によって支えられている。かつての日本企業のビジネスモデルは,ナンバーワン志向であった。1980年代までの日本は導入技術と価格競争力により,世界の製造業主要分野においてナンバーワンの地位を獲得した。“Japan as number one”の時代である。しかしこのモデルは米国による日本叩き,超円高,韓国などアジア諸国企業の模倣と追撃により,完全に敗れた。かつて日本が支配した液晶,パソコン,スマホ,半導体,テレビというデジタルの中枢分野では,日本企業のプレゼンスは,今は皆無である。では日本の企業は一体どこで生き延び収益を上げているのかといえば,それは周辺と基盤の分野である。デジタルが機能するには半導体など中枢分野だけでなく,半導体が処理する情報の入力部分のセンサー,そこで下された結論をアクションに繋げる部分のアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが必要になる。また中枢分野の製造工程を支える素材,部品,装置などの基盤が必要である。日本は一番市場が大きいエレクトロニクス本体,中枢では負けたものの,周辺と基盤で見事に生きのびているのである。

価格競争脱却,技術品質優位に特化

 大量に資金が投入される中枢の分野は競争が極めて激しい。中国はこの分野の支配権を得るために膨大な投資をしているが,それはいずれ大変な価格競争を引き起こすだろう。しかしこの中枢分野は日本は既に敗退した分野であるため影響は小さい。他方日本の担う分野は希少性が高く,価格支配力が維持できる,いわばonly oneの分野である。いうまでもなく日本には,国内市場向けに半導体,液晶,テレビ,パソコン,スマホなど中枢の技術も残っている。この中枢および,周辺と基盤という3つの技術分野を揃えているのは日本だけである。

IoT時代に日本の技術総合力,only one戦略の強みがものをいう

 これからIoTの時代になると,これら3要素が揃わないとモノが作れなくなる。IoTの時代の機器は単純にモジュールを組み合わせればできるというものではなく,すり合わせによる工夫が必要な分野,また大量生産ではなく多品種小ロット生産,技術がブラックボックスで簡単には模倣できないなどの特性がある。研究室で人々が一生懸命チームを作って研究をしていくという地道な努力が必要,また多様なユーザーの現場ニーズからのフィードバックが必要である。これらによりonly oneの分野では容易にキャッチアップされることはない。

 世界的ハイテクブームの中心にある中国は製造2025プランで大投資をしている。この恩恵を日本のエレクトロニクスメーカー,機械メーカー,化学メーカーが受けている。短期的には極めて大きな追い風である。そして長期的には日本企業は中国の爆投資の弊害を受けにくいポジションに立っている。ポイントはナンバーワンを目指す価格競争から完全に外れ,技術品質に特化,オンリーワンであるがゆえに価格支配力がある,円高でも抵抗力がある,これがこの間の日本の企業収益を支えていると考えられる。

 日本企業の技術品質で優位性持つオンリーワン分野への特化という特徴は,観光などサービス業など内需産業においても当てはまることである。豊かになったアジア中産階級が高品質日本に向かって群れを成して訪れている。中国人の旅行先人気で日本がトップになったとの報道があった。また韓国の2017年対日渡航者数は約700万人対人口比15%,台湾は同約450万人対人口比20%と日本人気は著しく高くかつうなぎのぼりである。日本のオンリーワンのソフトパワーがものを言っていると考えられる。

自由主義圏随一の安定政権

 日本の地政学的立場が強まっている。自由主義諸国で最も安定し,ドイツのメルケル首相に次ぐ長期政権となった安倍政権の下で,日英準同盟国化が進行し,河野外相は国連安保理議長としてのリーダーシップを発揮している。またトランプ政権が離脱を決めたTPPのまとめ役としてふるまっている。河野外相はトランプ氏のエルサレムへの米国大使館移設表明後,主要国外相としては初の中東訪問を行いプレゼンスを発揮した。

中韓冷却と日中関係急改善,背景に経済要因が

 こうした中で昨秋の党大会以降,中国の対日姿勢改善が顕著になっている。権力基盤を強めた習近平主席が,対日弱腰批判を恐れる必要がなくなったからではあるが,それにしてもなぜ中国は中国の覇権主義に対する批判をやめない日本にすり寄るのだろうか。それは日本の技術が必須だから,つまり前述の中国の産業構造高度化プラン,製造強国建設計画において日本の周辺基盤技術が必須だからに他ならない。『中国製造2025』プランが策定された2016年以降,中国の相手国別にみた輸入額は対日が,対韓国,対台湾,対ドイツなどを抑えて,主要国中最も高い伸びを見せていることが,その証左である。

 他方でTHAADミサイル配備以降中国の対韓国姿勢が著しく厳しくなっている。文大統領は12月の中国訪問で甚だしい冷遇を受けたと韓国メディアは報道している。また中国の韓国旅行規制により韓国の観光産業は大打撃を受けている。今や韓国は中国にとってナンバーワン競争を仕掛ける相手であるが,他方韓国経済は大きく中国に依存しているという非対称性が背景にある。韓国の輸出相手国比率は対中国が25%と突出して高い,一方中国にとって最大の輸入国は韓国であり,かつ貿易収支は赤字である。

 このようにOnly one 戦略で成し遂げられ日本の企業競争力復活は,日本の地政学的立場を大きく強化しているといえる。

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