世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.814
世界経済評論IMPACT No.814

日中韓自由貿易協定(FTA)の交渉会合と日中韓の「異床同夢」

韓 葵花(千葉大学 特別研究員)

石戸 光(千葉大学 教授)

2017.03.20

 日中韓自由貿易協定(FTA)の交渉会合は,2013年3月28日の第1回目の開催から2017年1月9日には第11回目の交渉会合を迎えた。第5回目の会合からは「局長/局次長会合」と「首席代表会合」がそれぞれに開催されることになった。三カ国の交渉会合は2013年に3回,2014年に3回,2015年に3回(首席代表会合3回,局長/局次長会合3回),2016年に1回(首席代表会合2回,局長/局次長会合は1回),2017年1月現在で1回開催されている。

 中韓FTAが締結し発効された2015年前後は,その影響であろうか,2014年11月24日から2016年6月27日の約19カ月間に,第6回目から第10回目までの計5回もの交渉会合が開催されている。その上,それまでとは違い,「局長/局次長会合」と「首席代表会合」に分かれて,それぞれ5回ずつ,計10回の会合が開かれた。平均すると2カ月に一回,「局長/局次長会合」か「首席代表会合」が開かれたこととなる。

 ところが,その後の第11回目の交渉会合は,その前の「首席代表会合」からは半年以上の間を経て,また「局長/局次長会合」からは9カ月ぐらいの間を経て,2017年1月9日に行われた。その上,「局長/局次長会合」と「首席代表会合」が一緒になった会合であった。

 中国商務部は,「FTA戦略の実施を加速し,開放型経済新体制を構築する(加快实施自由贸易区战略 构建开放型经济新体制)」というタイトルの記事をホームページ上に掲載し,中日韓がGDPと対外貿易額ともに合計額で世界の20%以上を占めている点を指摘している。また中日韓FTAの締結は三カ国の産業の相互補完性を十分に発揮できる手助けになり,三カ国の貿易投資水準の潜在力を昇格し,地域のバリューチェーンの更なる統合を促進するl点に言及している。2015年11月の中日韓首脳会議では共同宣言の中で,三カ国のFTA交渉を加速することに一層努力し,最終的には全面的・高水準の互恵的協定を締結することを再確認したと発表した。このように,中国政府は経済面に限って言えば,基本的には三カ国の自由貿易協定に前向きであるといえよう。

 一方,韓国の産業通商資源部は,第11回韓中日FTA公式交渉(韓国語の表現)が2016年10月29日の韓中日経済貿易大臣会合であり,三カ国FTAの交渉加速化に向けて更なる努力をすることについて再確認をした後に開かれた最初の交渉会合であること,2013年3月の第1回目の交渉会合から10回の公式交渉を行われたが,核心論点に関する三カ国間の意見の対立により,その間の論議進行が遅い側面があったと指摘している。また,世界的に保護貿易主義が拡散している状況において,韓中日FTAは東アジアの経済大国である三カ国間の貿易・投資を拡大し,自由貿易基調をしっかり維持していくことに意義があると主張している。

 そして日本の外務省は,日中韓FTAに関して,「包括的且つ高いレベルのFTAとなることを目指すべき」と提言し,日中韓FTAは日本にとって主要な輸出品の関税引き下げが期待されると指摘している(平成24年11月外務省リリースの資料「日中韓FTA交渉」より)。また,中国と韓国は日本の主要な貿易相手国であり,アジア太平洋地域における中国と韓国との経済的な連携のための枠組み作りは,日本が「経済成長を維持・増進していくためにも不可欠」であるとの認識である。

 つまるところ,日中韓の三カ国は,経済的なメリットに関しては「同床異夢」ならぬ「異床同夢」を見ているようである。政治面および地政学的な関係性が経済的な関係性の構築の妨げになっている点は常に指摘され,また妥当するが,経済連携という「同じ夢」を,ノーベル経済学賞を受賞したトーマス・シェリングの提唱した「フォーカルポイント(合焦点)」,すなわち「他国が,ある国がこうするであろうと期待しているであろうと期待する各国の期待値の焦点」として捉え,交渉会合という情報の交流が仮に断絶しかかった際にも,この合焦点をもとに日中韓三カ国の経済連携が実現することを期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article814.html)

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