世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日中韓サミットと日中韓自由貿易協定(FTA)
(千葉大学 特別研究員)
2024.07.08
第9回日中韓サミットが2024年5月27日にソウルで開かれた。外務省によると,同サミットは「日中韓が持ち回りで開催する首脳会議」で,他の国際会議の機会に開催される日中韓首脳会議とは区別されている。中国語で「中日韩领导人会议(中日韓指導者会議)」,韓国語で「한·일·중정상회의(韓日中頂上会議)と表記する。
第9回サミットでは38項目の共同宣言が発表されたが,日中韓協力と日中韓FTAについて次のように述べた。まず項目2では三国協力事務局(TCS)が三国協力の制度化に強固な土台を築いたとしたうえ,第8回サミットで採択された「次の10年に向けた三国協力のビジョン」を履行するというコミットメントを再確認した。項目9では三国協力の利益が他国に拡大できるよう「韓日中+X協力」を促進し,三国が他の地域と共に繁栄できるようにする。項目22では経済・貿易分野における三国の共同の努力が,地域及び世界の経済の繁栄と安定に重要な役割を果たすとし,地域の発展格差を縮小し,共同の発展を実現するように努力する。項目24では日中韓FTAの基礎として,地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の透明・円滑・効果的な履行を確保することの重要性を確認し,固有の価値を持つ,自由・公正・包括的・ハイレベルの相互に互恵的なFTAの実現を目標とした日中韓FTAの交渉を加速するための議論を続けるとした。項目38では次回,日本による第10回サミットの開催に期待するとした。韓国外務省の発表の共同宣言参照。
外務省よると,初のサミットは2008年12月13日に福岡で開催され,「開放性,透明性,相互信頼,共益,多様な文化に対する尊重」の原則の下,年1回開催することとなり,第2回は翌年中国で開催することが決まった。実際は2008年から16年半の間8回しか開催されず,第9回目になる今回は,前回の第8回(2019年12月24日)から4年半ぶりとなった。サミットは毎年開催されるのが困難であったが,サミットによる三国の協力は評価できるところだ。
まずTCSは,第2回サミット(2009年10月10日)で提案され,2010年12月16日に設立協定に署名し,2011年5月17日に設立協定が発効し,2011年9月に韓国ソウルで発足した「三国の平和と繁栄を促進するために設立された国際機関」である。TCSが主催した「日中韓三国協力国際フォーラム2024」は,6月18日に「日中韓協力25周年記念:より明るい未来を形作るための協力の制度化及び交流の促進」をテーマにソウルで開催された。
次に日中韓FTAの交渉の経緯を見てみる。日中韓FTAは第5回サミット(2012年5月13日)で年内の交渉開始が約され,2012年11月に交渉開始を宣言した。2013年3月に第1回交渉会合が開催され,2019年11月の第16回会合が最後となっている。
同じ時期(2013年)に交渉が始まった,日本が参加する広域FTAである環太平洋パートナシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)(2018年3月署名,2018年12月発効),日EU・EPA(2018年7月署名,2019年2月発効),東アジア地域包括的経済連携(RCEP)(2020年11月署名,2022年1月発効)のなかで,日中韓FTAは唯一交渉中のFTAである。
第9回サミットと日中韓FTAについて,中韓のメディアは次のように報道している。先ず,中国の環球時報(電子版)は2024年5月28日付で「4年過ぎの再開は三国協力の再起動と再出発を象徴する」と報じたが,その最大の成果は,日韓のメディアの報道を引用し「交渉を早速再開することへの共通認識を得たこと」とした。また日本経済新聞を引用し,「米中の対立が激しくなっても,日韓とも中国との経済的関係を完全に切り離すことはできない。もし相互の経済協力が順調に進まない場合,中日韓の枠組み内で経済停滞を起こす可能性がある。保護主義に反対するのは中日韓の共通の願いのはずだ」としている。
韓国経済(電子版)は2024年5月27日付で,「三国間で貿易障壁を引き下げるFTAが締結されると,EU,米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)と共にグローバルなビックスリー経済圏が形成される」と報じた。また「市場の開放性を維持し,サプライチェーンの協力を強化し,混乱を回避するというコミットメントを再確認した」とし,三国は輸出管理に関する意思疎通を継続することで合意したと報じた。
中国の光明網は2024年5月28日付記事で,「中国には“远亲不如近邻”(遠くの親戚より近くの他人)という諺がある。日中韓の25年は雨あり風ありではあるが,共同で隣国が互恵的に協力する道を探索した」と報じた。
韓国の聯合ニュースは2024年7月3日付で,「政府はグローバルサプライチェーンの分断が深まり,自国ファーストが拡大する国際情勢の中,“外部依存度の高い韓国経済にリスクが高まっている”と診断し,“FTA世界一”になるため,通商政策ロードマップを発表した」と報じた。現在,韓国はFTAカバー率が85%であるが,2027年までにシンガポール(87%)を超える政策だ。
日中韓FTAの第17回交渉会合の開催への期待が高まっている。三国は世界GDPに占める割合が23%,世界貿易量に占める割合が約19%に及ぶ。日中韓FTAの交渉が経済のみならず「三国の平和と繁栄」を一層促進することを願いながら,日本にとって4番目のメガFTAの交渉に注目したい。
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