世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の実質家計可処分所得・消費支出の停滞
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2026.03.09
2014年以来の停滞
日本の実質家計最終消費支出は,2025年10-12月期には前期比年率換算+0.3%と,7-9月期の同+1.5%から減速したものの7四半期連続で増加となりました。しかし,10-12月期の水準は2020年価格年率換算で298.6兆円と,コロナ禍前の2019年7-9月期の303.0兆円に届いていません。さらに遡ると,実質家計最終消費支出の歴史的最高水準は2014年1-3月期の311.2兆円です。この期は2014年4月からの消費税率引上げを控えて駆け込み需要が生じたことで消費支出が押上げられたと考えられます。ただ,その前の2013年7-9月期,10-12月期の水準でさえ,それ以降一度も上回ってはいません。実質家計最終消費支出は,アベノミクスのスタートから間もない時期から停滞が続いています。その背景にあるのは,実質家計可処分所得の停滞です。実質家計可処分所得は,現行GDP統計の起点である1994年から2013年前半頃まで増加基調にありましたが,そこから増加がほぼ止まり,コロナ禍下の政府支援策の影響で一時急増したものの,その後,物価上昇によって目減りしています。2013年4-6月期には2020年価格年率換算で305.7兆円であったものが,2025年7-9月期には296.8兆円に減少しています(2025年10-12月期分は未発表)。また,家計貯蓄率は2024年10-12月期から4四半期連続マイナスとなっており,物価上昇による名目消費支出の膨張に所得が追いついていないことがうかがわれます。
税と社会保障の負担の増大
家計の所得・富に対する税と社会保障負担の,課税・再分配前の所得(雇用者報酬,自営業者営業余剰・混合所得,利子・配当等の財産所得(純)の合計)に対する比率を見ると,下の表が示す通り,長期的に上昇しています。一方,社会保障給付や家計の移転純受取の比率は,2010年まで上昇していましたが,その後,2020年にコロナ禍下で一時的に急増したことを除けば,頭打ちないし若干低下基調にあるようです。高市政権は,家計の負担を減らすべく,社会保障と税の一体改革に取り組もうとしています。ただ,代替財源の見通しが立たないため,財政の持続性を保つ観点からすれば,家計の負担削減はあまり進みそうにありません。
- 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025
- (所得・富税+社会保障負担)/ 課税・再分配前所得
- 26.4 27.5 28.5 29.9 32.5 33.8 34.7
- (社会保障給付+移転受取)/ 課税・再分配前所得
- 14.0 17.6 20.0 23.6 23.0 27.7 21.2
- (注)暦年ベース。2025年は7-9月期までの季節調整済み値の平均値
- (出所)内閣府経済社会総合研究所
実質円安に伴う労働分配率の低下
雇用者報酬と自営業者の営業余剰・混合所得の合計を労働所得とし,国民総所得で割ることで算出した労働分配率(四半期データを月次に変換)は,円実質実効為替レートと,1994年1月から2025年9月の期間において相関係数0.877と強い正相関にあります。円実質実効為替レート(2020年=100)は歴史的ピークである1995年1月の193.95から2026年1月には67.73まで下落しました。労働分配率は1995年4-6月期の58.1%から2025年7-9月期には50.7%に下がりました。実質円安は,交易条件の悪化を通じて労働者への所得の配分を減らしてきたと言えます。一方,2025年12月8日付けの本コラム「日本経済の相対的衰退と円安」で述べたように,円実質実効為替レートの長期的下落は,日本経済の生産性が他の先進経済に対して1990年代前半をピークに相対的に低下してきたことを反映していると考えられます。
高市政権の「責任ある積極財政」によって日本経済の成長トレンドが高まり,生産性上昇率が他の先進経済を上回る所まで向上してそれに伴って円実質実効為替レートが上昇し,労働分配率が高まることが,実質家計可処分所得と消費支出の停滞脱却の鍵と言えるでしょう。ただ,2月9日付けの「アベノミクスの成功と失敗」で述べたように,政府主導の投資促進策に経済成長トレンドを引上げる効果が期待できない点では,その道のりは遠く厳しいものになりそうです。
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