世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4240
世界経済評論IMPACT No.4240

綱渡りの日本の財政・金融政策

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2026.03.02

GDPギャップは小幅マイナス

 2月16日発表の日本の2025年10-12月期の実質GDPは,2四半期ぶりにプラスとなったものの,前期比年率換算+0.2%と小幅な伸びに留まりました。前年同期比では+0.1%と7-9月期の+0.6%を下回りました。内閣府によるGDPギャップ推計値の10-12月期分は本稿執筆時点では未発表ですが,今回の実質GDPの成長率からすれば,7-9月期の−0.2%から若干マイナス幅が拡大すると見られます。足元の景気が芳しくないことが確認された点では,財政刺激策が正当化されそうです。

 ただ,GDPデフレーター前年同期比上昇率は10-12月期には+3.3%と5四半期連続で3%を上回っています。財政刺激策が大規模なものになると,インフレの再加速を招きかねません。一方,金融政策は,急激な引締めによる景気悪化を避けなければなりませんが,物価上昇抑制の観点では,日銀は段階的利上げを続けるべきでしょう。

名目成長率を下回ってきた10年債利回り

 現行GDP統計によれば,起点となる1994年1-3月期から2012年10-12月期までの名目GDPの成長率は年率-0.20%でした。これに対し,2012年10-12月期から2025年10-12月期までの期間では年率+2.22%に高まりました。一方,10年物国債利回り(月末値)は1994年1月から2012年12月には平均1.78%であったものが,2013年1月から2025年12月には平均0.38%に低下しました。2012年末に始まったアベノミクス下の大規模金融緩和によって,日本経済はデフレから脱却して名目GDP成長率が高まった一方,10年債利回りは低水準に抑えられてきました。国債利回りが名目GDP成長率を大きく下回るようになったことで,政府は,税収・税外収入と国債費を除く歳出の差額であるプライマリー財政収支を黒字にしなくても,政府債務残高のGDP比を減らすことが可能になりました。

 内閣府の推計によれば,現在,日本経済の潜在GDP成長率は0.5%程度とされています。均衡状態でのインフレ率を2.0%とすれば,名目GDP成長率の中期トレンドは2.5%程度と想定されます。10年物国債利回りは,2021年末には0.1%以下であったものが,現在は2%を超えています。2月2日付の本コラム「上昇を続ける日本の国債利回り」で述べたように,2.5%程度と考えられる均衡水準に向けて,上昇過程にあると考えられます。ただ,財政刺激策の規模が大きくなると,国債利回りの上昇が加速化して,少なくとも一時的には名目GDP成長率の中期トレンドを上回る可能性があります。そうなれば,プライマリー財政収支を黒字化させないと政府債務のGDP比が上昇することになり,財政の持続性が損なわれます。

日本経済を支えてきた円安下の輸出増

 国債利回りの上昇を抑えようとして日銀が国債購入を増やすと,円の信認が低下して円安に拍車がかかりかねません。しかし,物価上昇を抑制するためには,緩やかな円高にすることが望ましいでしょう。2月9日付の本コラム「円ドル為替レートのリスク・プレミアムの行方」で述べたように,円/米ドル為替レートの適正水準は1米ドル=130円程度と見られ,米国の金利動向をにらみつつ,日銀の段階的利上げによって数年かけてそこに近づけることが考えられます。

 ただ,円安による輸出の増大が,過去30年の日本経済を支えてきたことは否定できません。円の実質実効為替レート(2020年=100)は,ピークの1995年4月の193.95から2026年1月には67.73へと65.1%下落しました。一方,財・サービス輸出のGDP比は,1995年4-6月期の8.4%から2025年10-12月期には22.0%に上昇しました。1994年1月から2025年12月の期間において,円の実質実効為替レートと財・サービス輸出のGDP比(四半期データを月次データに変換)の間には−0.940という非常に強い負の相関があります。急激な円高は,輸出や企業の海外利益の減少を通じて景気失速を招く懸念があります。

 日本の財政・金融政策は,景気と物価の安定を維持しつつ,海外情勢も見ながら,国債利回りや為替レートを望ましい水準へ誘導するという綱渡りを求められています。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4240.html)

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