世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4201
世界経済評論IMPACT No.4201

総選挙直前のタイの動向:世論調査,期日前投票,政権構想

鈴木亨尚

(元亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2026.02.09

 前回2023年5月14日の総選挙では,選挙管理委員会が翌日に「非公式結果」を発表しているので,今般も9日には発表があるかもしれない。選挙管理委員会は投票日から60日以内に公式結果を発表することになっている。

 本稿では,8日に向けた総選挙直前の状況を,世論調査,期日前投票,政権構想の順に示していく。なお,タイでは,混乱を避けるために,選挙時に酒類の販売・提供が禁止される。今回は2月1日の期日前投票時で1月31日(土)午後6時から2月1日(日)午後6時まで,2月8日の本投票時には2月7日(土)午後6時から2月8日(日)午後6時まで禁止される。規制はコンビニ,スーパー,レストラン,バー,ホテルのルームサービスなどタイ全土のあらゆる場所が対象となる。

世論調査

 1月30日,16~28日に実施されたスアン・ドゥシット大学の世論調査の結果が発表された。国民党は3分野のすべてで1位(小選挙区33.46%,比例代表35.99%,首相候補35.07%,以下,同),貢献党(20.60%[3位],22.13%[2位],21.53%[2位]),タイ誇り党(以下誇り党 21.52%[2位],18.92%[3位],16.11%[3位])と続き,民主党(8.13,10.16%,12.97%)は全分野で4位である。首相候補は,国民党がナタポン,貢献党がヨッチャナン,誇り党がアヌティン,民主党がアピシットである(注1)。

 調査の実施主体が異なると結果も異なる。29日発表の,ラジャバット大学の第2回世論調査(19~25日実施)の結果では,国民党が全2分野で1位(政党支持[小選挙区と比例代表の区別なし]38.8%,首相候補36.7%,以下,同),貢献党が両方で2位(17.9%,15.9%),誇り党が両方で3位(15.6%,15.2%)である。同大学の第1回調査と比較して,政党支持は,貢献党が5.4%増,誇り党が5.7%減,首相候補は,国民党のナタポンが6.7%増,誇り党のアヌティンが9.2%減となった。投票に際し有権者が重視するのは,小選挙区では,党の政策(45.3%),候補者の資質で,比例代表では党の政策(47.1%),政党の過去の実績となっている。その結果,同一政党への投票は71.6%に留まる。有権者の投票に影響を与える政策は,生計と生活費,汚職の順である。地域別では,政党支持・首相候補ともに,国民党が北部地域,中央地域,東部地域,東北部地域で1位,貢献党は西部地域で1位,民主党は南部で1位である。年齢別では,18~39歳は国民党支持,40歳以上は貢献党と誇り党に対する支持が多くなっている。また,有権者の67.8%が国民投票での承認の意思を表明した(注2)。なお,国民投票については前掲の拙稿「総選挙に向かうタイの動向:世論調査,新憲法制定の国民投票」(本コラム2月2日付けNo.4193)にて詳解。

 1月30日,タイ国立開発行政研究院の世論調査(NIDA Poll)「選挙の勢い2026年:第2回」(23~27日調査実施)の結果が発表された。国民党は3分野のすべてで1位(小選挙区33.56%,比例代表34.20%,首相候補29.08%,以下,同),誇り党は全分野で2位(22.76%,22.60%,22.24%),以下,貢献党(16.92%[3位],16.20%[3位],12.12%[4位]),民主党(12.73[4位],13.20%[4位],12.52%[3位])と続く(注3)。

 3機関の調査に共通しているのは国民党が全分野で1位だということである。選挙戦当初から1位で,そのまま選挙戦を終了しそうである。一方,誇り党と貢献党の順位と割合は調査の主体により異なる。また,誇り党は最終盤で失速したようである。

 世代別にみると,約5,300万人の有権者のうち,約58%を占めるジェネレーションX・Y(31~60歳,約3,000万人)は貢献党を最も支持している。誇り党は50歳代の有権者の最も高い支持を得ている。一方,国民党はジェネレーションX(40~60歳)の約10%からしか支持を得ていないが,ジェネレーションY・Z(18~39歳)の最も高い支持を得ている(注4)。

期日前投票

 2月1日に期日前投票が実施された。選挙管理委員会によると,登録有権者5,292万人のうち,期日前投票の登録者は241万人(4.6%)である。期日前投票は自分の選挙区外でも投票できる。バンコクは期日前投票登録者数が最も多く,合計844,672人だった。バンコク都庁(BMA)によると,このうち,74万966人が投票し,投票率は87.6%だった。期日前投票は国民投票には適用されないので,期日前投票に参加した有権者は,2月8日に新憲法制定の是非を問う国民投票に投票する必要がある(注5)。

 一方,普段,都市部に住んでいる有権者が,選挙時に,帰省し,投票する場合もある。前回の2023年の選挙時には,都市部に住む若者が帰省し,地方部に住む親世代に前進党(国民党の前身)の良さを説明し,得票アップに貢献したといわれている。

政権構想

 国民党と誇り党の関係は複雑である。憲法改正で対立し,国民党がアヌティン内閣に対する不信任決議提出に動くなか,アヌティンは下院の解散を決定した。一方で,新憲法制定を最も重視している国民党は,上院を支配する誇り党の協力を得なければ,これを実現することができない。

 12月23日,政党指導者の討論会で,ナタポンは,誇り党が憲法改正に関して公党間の約束を破ったとして,総選挙後の首班指名では,アヌティンを指名することはないと明言した。同討論会で,司会者が,「不敬罪を改正したいか」と質問したのに対し,ナタポンだけが挙手した。25日,これに対して,アヌティンは,国民党が刑法第112条(不敬罪)の改正をめざす考えを放棄しない限り,国民党との連立はないと述べた。アピシットも同様の考えを表明した。さらに,これに対して,ナタポンは,憲法裁判所判決が第112条改正を選挙公約に含めることを禁止しているので,刑法第112条の改正は党の選挙公約には含まれていないと反論した。28日,ナタポンは,国民党は首班指名選挙でアヌティンを指名しないが,誇り党が「グレー」やダーク・マネー・ビジネスと関連がある人物を大臣に置かないという条件を受け入れれば,国民党主導の連立政権に受け入れる可能性はあると述べた。その際,ナタポンは「我々には,閣僚は法律が要求するよりも高い基準を満たさなければならないという原則がある」と述べた。つまり,イデオロギーの対立などは存在するものの,主要4党間に連立の否定は存在しない(注6)。

 しかし,誇り党は,可能な限り,国民党を除く連立を模索することになろう。この場合,連立相手は,まず,貢献党ということになる。一方,国民党は,自党から首相を出し,誇り党と連立する可能性を模索することになる。誇り党を中心とする政府は新憲法制定の国民投票実施を発議したが,これで誇り党は,首班指名時の合意に関して,国民党との約束を守ったとも解釈される。誇り党との連立が適わぬ場合,国民党は貢献党との連立を検討することになるだろう。いずれにしても,貢献党がキャスティングボートを握ることになる。

[注]
  • (1)Bangkok Post, 30 January 2026.
  • (2)Ibid.; Thai PBS WORLD, 30 January 2026; The Nation, 29 January 2026.
  • (3)Bangkok Post, 30 January 2026.
  • (4)Thai PBS WORLD, 31 January 2026.
  • (5)Anadolu Ajansi, 1 February 2026;『@niftyニュース』2026年2月2日。
  • (6)Thai PBS WORLD, 25 December 2026; Thai PBS WORLD, 29 December 2026; The Nation, 28 December 2026.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4201.html)

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