世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「ロボ車元年」の衝撃:Waymoが東京を素通りしロンドンを選んだ理由
(立教大学経済研究所・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2026.02.09
本稿は「ロボ車元年:グーグル系,GO・日本交通と提携」(2025.01.20付け No.3699)の続報である。自動運転車は英語圏ではRobotaxi(ロボットタクシー)と呼ばれ,略して「ロボ車」である。
筆者はロボ車を,完全無人の営業(車内に安全員なし)と定義する。
この狭義の定義に該当する地域として,米国,中国に続き第3の地域が現れた。しかも米中企業のタッグである。Uberによれば,中国系自動運転企業WeRideと米国の配車アプリUberは,2025年11月,アラブ首長国連邦の首都アブダビで,完全無人・有料のロボタクシー(レベル4)の商用運行を開始した。
これは,ロボ車が米中だけでなく中東でも実用化段階に入ったことを示す重要な事例であり,「ロボ車元年」という評価を国際的に補強する。この国際展開の中心にあるのが,グーグルの親会社Alphabet傘下のWaymoである。同社はフェニックス,ロサンゼルス,サンフランシスコで商用運行を進め,2024年以降,営業範囲を市街地から空港,さらにシリコンバレー方面へと連続的に拡大させてきた。
特に象徴的なのが,空港エリアへの進出である。空港は観光客,出張者,通勤者が交錯する交通の結節点であり,待ち時間と信頼性が厳しく問われる。ここにロボ車が入ったことは,Waymoが「市内移動の実験サービス」から,空港アクセスを含む広域移動インフラへと性格を変えたことを意味する。
さらに南へ視線を移すと,営業圏はシリコンバレーにまで及ぶ。サンフランシスコの観光地であるフィッシャーマンズ・ワーフから空港圏を経て,アップル本社(Apple Park)やグーグル本社,スティーブ・ジョブズの原点とされるガレージのある地域までの直線距離は約60キロメートルに達する。営業範囲は数千平方キロメートル規模となり,単一都市での試行錯誤とは明確に異なる段階(大都市圏)に入った。
これは「実験」ではなく,複数都市機能を横断する運行モデルが成立したことを示している。ちなみに,東京駅から羽田空港までは約14キロ,成田空港までは約60キロである。サンフランシスコの拡大過程を当てはめれば,第2段階で羽田,第3段階で成田に直線距離では到達する計算になる。
こうした動きと並行して,Waymoは米国外展開にも踏み出した。注目すべきは,一足先に走行データ収集を開始した東京より先に,ロンドンで公道テストを本格化させた点である。ロンドンは狭い道路,多差路,信号のない交差点,歩行者や自転車の混在といった点で,世界有数の「複雑都市」である。かつて「東京やロンドンでの導入はまだ先」と言われたが,その前提は崩れつつある。
ロンドン先行の背景には,英国が2024年に成立させた「自動運転車両法(AV Act)」がある。同法は,事故時の法的責任を「人間」から「システム(製造業者・運行者)」へ明確に移転させた。レベル4を前提とするWaymoにとって,これは強力な追い風である。同社は米国で,人間の運転より事故率が低いという統計実績を積み上げており,制度が整ったロンドンでの展開は自然な選択といえる。
日本でもWaymoは日本交通,配車アプリGOと連携し,都心部で走行データ収集を開始している。ただし現段階は初期フェーズであり,商用化の時期は明示されていない。
日本は鉄道網が高度に発達した「鉄道王国」であり,安価,定時性,環境負荷の低さという点で公共交通の優位性が高い。このため,自動運転車が都市交通の主役になるとは限らず,既存のタクシー業界との利害調整や配車アプリの構造の違いが「応用問題」として残る。
東京が遅れるかどうかは筆者の観測に過ぎない。しかし,もしロンドンで左側通行圏の標準が確立すれば,日本の自動車産業は,「OSという心臓部を握られた車両の供給者」に転じるリスクを孕む。かつて,画質にこだわったベータ方式が,ソフトと規格開放を優先したVHSに敗れた歴史を想起させる。日本メーカーがレベル3(人間が責任を負う機械)を磨く間に,Waymoはレベル4(OSが責任を負うデジタルインフラ)を世界標準として広めつつある。
「ロボ車元年」の射程がロンドンまで届いた今,日本に突きつけられているのは「狭い道路事情」という物理的制約ではない。車を「動く計算機」と認め,社会実装する決断力という,最も難易度の高い心理的障壁なのである。
2025年1月を「ロボ車元年」とするならば,2025年後半から2026年は,その射程が空間的に可視化された時期である。ワン・ステップ先に進んだ。WaymoはAlphabetにとって,本業以外では最重要事業の一つであり,ロボ車分野はドッグイヤーのような速度で動いている。サンフランシスコ市街,空港,シリコンバレー,そしてロンドン。これらを結ぶWaymoの動線は,ロボ車が実験段階を終え,世界展開に耐える段階へ移行したことを静かに物語っている。
筆者のこの見方を支えているのは,Waymoと従来のタクシーを特段区別せず利用する,サンフランシスコ市民の選択である。
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