世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
診療報酬制度による費用吸収の欠陥:医工開発
(SPCコンサルティング株式会社Labo 所長)
2026.02.09
1.政策提言
医工(医療と工学の連携)スタートアップ動向調査の結果,日本の診療報酬制度では,AI・DX型「無形資産」の費用回収方法を制度上明記しておらず。現在,医工DX市場の成長阻害要因となっているため,「既存運用」の見直しと「不明部分」の明確化を提言する。
2.医工DX市場の現状
1)医工スタートアップの市場規模
民間統計(注1)によると,医療機器事業者数187社のうち資金調達済みは107社で平均調達額は3.1億円,主な事業分野はAI診断,SaMD(治療補助アプリ),遠隔医療となっている。
2)近年のトレンド
「医工連携」の動きは全国的にみられ,代表事例として東京科学大学の誕生が挙げられる。AI・IT・通信融合型の画像診断や遠隔監視など「デジタル無形知財」単体で医療機器として開発するスタートアップが増加している。
3)支援体制
厚生労働省や経済産業省,国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)は,医工連携を強化しスタートアップ育成5か年計画などを通じて支援の拡充を図っている。また地方自治体でも大学等研究機関,経済団体や商工会議所等と共同でスタートアップ支援を行っている。
4)医工スタートアップの市場活動
現在,病院の赤字経営改革と医療介護施設の人手不足に対して費用や制度での支援対策が取られ,産学連携で「活況な市場」となっている。他方で事業の選別選択も進んでいる。
3.課題:診療報酬制度で評価する仕組みと費用吸収の構造的欠陥
スタートアップの事業分析から重大な問題が確認されている。日本の診療保険制度では,AI・IT・通信の単独医工ソフトの開発投資に対して,費用回収の仕組みが制度上まだ確立されていない。
病院では,生産性改革目的でシステムやアプリを導入するが,設備投資のコスト回収方法が問題になっており,導入に二の足を踏むケースがある。スタートアップでも費用回収面から,新規開発とその拡大を著しく困難にさせている。他方,AMEDを含めたパブリックセクターは,DX医工開発向けの公費投資が継続されているため,費用回収方法について早急に対策を打たなければならない。現状のままでは「医療の質向上の恩恵」を受けられないという不利益を最終的に患者が被ることになる。
4.対策:費用コスト吸収のための改善提案
以上,スタートアップ・病院・行政の各視点を踏まえ,下記の費用吸収改善案について具体的な策を提示する。
1)既存OS・プラットフォーム利用
OSやプラットフォームがあるので,どの機器機材もつなげることが技術的に可能である。通信キャリアや大手IT事業者の標準装備を活用し,個別に費用計上しなくてもよい仕組みを整備する。
2)医療機器用AIソフト
AI機能を付加し「機器の診断精度が高く改善」された事例には,付加価値料金が承認されている。海外では「診断の精度改善状況を費用対効果として承認する」との英国の事例の記事(注2)あり。
●事例:内視鏡検査用画像診断AI
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「病変の検知能力が向上し診断精度の改善を承認した事例」では「上部下部消化器向け内視鏡検査用AI画像診断」の実用が広く知られている。
3)設備投資費
設備・維持管理,サービスなどの費用徴収には,情報産業での事業契約モデルが確立されており,長く社会で運用されている。
●事例:情報処理用サーバー&システム(ソフト)
数千万円~億円単位の機材資産に対しては,税制度において耐久年数に応じた「減価償却」が行われている。維持管理費用も計上ルールが確立されている。
4)DX医療機器
個人が在宅管理で利用できるものは,従来の機器料金負担から新規DX器材へと置き換えが可能となるため,診療報酬制度で費用がカバーされているケースもある。
●事例:血糖測定器
DX付き非侵襲性測定器が新規投入され,行為の生産性改善と異常値の自動検知機能が付加され「レンタル扱い」となっている。(医療と介護双方の看護師不足に対応)
●事例:スマートフォンアプリ,スマートウォッチ
その他では個人バイタル管理用のスマホアプリとスマートウォッチがあり,個人払いとなっている。今後は民間保険・医療特約での費用負担も考えられる。
5.まとめ
DX無形商材の目的別利用と各費用徴収方法と計上案をまとめると以下の通りになる。
1)診断支援AI
既存機材に対する「改善」の費用対効果に応じた試算を行い,画像診断管理加算等が行われている。
2)業務生産性改善DX
今後は他事業法人同様の運用とする。医療DX加算として費用項目の制度化を図り,利用者個人への費用請求を検討する。
3)医療安全管理AI
医療現場の安全対策の費用項目は制度化を図り,1)と同様に検討する必要がある。ただし「見守り」や「予防管理」を目的とする事例は既に民間サービス化され,個人対応となっている。
以上が整備されると,DX開発者は事業試算がし易く,病院は生産性改革を取り組み易く,投資事業者は案件を社会実装へと導き易くなる。スタートアップの事業選別と集約化が進む中,医工DX無形商材に対する費用回収ルートの明確化と制度構築は急務となっている。
[注]
- (1)代表例としてTracxn調べを記載『Top Startup in medical device in Japan 2026』
- (2)Nature『Paying for artificial intelligence in medicine』
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