世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4122
世界経済評論IMPACT No.4122

ベトナム・カンボジアへ翼を広げる:イーレックスの海外事業

橘川武郎

(国際大学 学長)

2025.12.15

 2025年9月,イーレックス株式会社(eREX Co.,Ltd. 以下イーレックス)の海外事業の現場を見学する機会があった。訪問した国は,ベトナムとカンボジアである。

 新電力の雄であり,バイオマス発電に積極的に取り組むイーレックスは,海外でも,再生可能エネルギー発電による温室効果ガス削減に取り組んでいる。

 ベトナムでまず訪れたのは,南部のカントー市にあるハウジャンバイオマス発電所である。同発電所の事業主体はハウジャンバイオエナジー(HBE)。イーレックスが51%,残りの49%をベトナム電力公社(EVN)のグループ企業3社が出資する合弁会社である。

 今年4月に運転開始したばかりのハウジャンバイオマス発電所の出力は2万kW。メコンデルタの水田地帯に立地する地の利を活かし,50〜100トンの小型運搬船による水運で搬入したもみ殻を燃料とする。運搬船は個人所有で,夫婦で船に住み込んでいるケースも多いと言う。

 ハウジャンバイオマス発電所では,5haの敷地に,船着場,燃料倉庫,ボイラー,蒸気タービンと発電機,排水装置,灰置き場などが所狭しと並ぶ。ただし,隣接する5haの土地を,将来の拡張用に確保している。田園地帯のど真ん中に高さ24mの2機のボイラーと高さ40mの煙突が屹立する姿は,なかなかの壮観だ。

 現場で働くのは,60人強のベトナム人従業員。もみ殻を船から陸揚げするアンローダーの吸い口は,彼らの発案により,金属製からビニール製の柔軟なものに変わった。その逸話が示すように,現場の士気は高い。PPA(電力購入契約)による販売先であるEVNの買取価格をコスト上昇に見合う形で引き上げること,燃料のもみ殻を安定的に確保すること,副生する灰の需要先を開拓することなどが,HBEの今後の課題だそうだ。

 ベトナムで次に訪れたのは,北部のトゥエンクアン省にある,イーレックス・サクラ・バイオマス・トゥエンクアン社のバイオマス燃料製造工場。同社も合弁会社であるが,出資比率はイーレックスが97%,ベトナム資本が3%である。

 このトゥエンクアン工場の敷地面積は3.36haで,生産能力は年間15万トン。アカシアを原料とする木質バイオマスペレットの製造を2025年3月から開始しており,製品を日本向けに輸出している。

 同工場では,工程の流れに即して,チョッピング設備,ハンマーミル,ドライヤー,グリンダー,ペレタイズマシーン等を順に見学した。諸設備がきわめて効率的に配置されていること,現場で働くベトナム人たちが笑顔で迎えてくれたことが印象的だった。

 カンボジアで訪れたのは,西部のポーサット州にあるポーサット水力発電所の建設現場である。同発電所の事業主体はストゥンポーサット・ハイドロパワー(SPHP)・カンボジア社。イーレックスが51%,残りの49%を韓国資本が出資する合弁会社である。

 来年12月に竣工予定のポーサット水力発電所の出力は8万kW。メコン川の支流のポーサット川に堤長700m,堤高100mのロックフィルダムを建設する現場では,壮大で優雅なダムの骨格が姿を現していた。7km下流に位置する発電所の建設も,急ピッチで進む。川の水量の豊富さに驚かされた。

 イーレックスは,両国での事業をさらに拡大しようとしている。今後に期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4122.html)

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橘川武郎

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