世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
グローバルサウス+中国:国際社会における中国の位置づけ
(元亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)
2025.10.13
9月23日,中国の李強首相は,国連総会の関連イベントで,中国が世界貿易機関(WTO)の既存及び新規の交渉で,「特別かつ異なる待遇(SDT)」を放棄すると発表した。これは多国間貿易体制およびWTOに対する支持を改めて示すこと,及び,中国が多国間貿易体制の維持に対して,より積極的な役割を果たす意思があることを明確にするためである。一方,中国は,発展途上国としての地位は変更せず,グローバルサウスの一員であり続けると強調した。本稿では,この表明が国際社会における中国の位置づけに与える影響を検討する。その際,「グローバルサウス+中国(Global South+China)」という概念を使用する。
国際的な基準からみても,現時点で,中国は発展途上国である。世界銀行の所得水準別分類で,2025年度(2024年7月1日からの1年間)の高所得国は2023年の1人当たりGDIが14,005ドル以上である。2023年の中国の1人当たりGDIは12,404ドルで,閾値とは若干の差がある。一方,中国のGDIはアメリカに次いで世界第2位である。このような中国の立ち位置を「発展途上大国」と呼んでおきたい。インドも,すでに,発展途上大国に分類してよいように思われる。なお,今後の予測は難しいが,中国は,早ければ,2020年代後半にも,高所得国入りしそうである。
発展途上国は客観的な概念なので,他国の認識を考える必要はない。問題はグローバルサウスである。筆者は,ブラヴボイ=ワグナーに従って,グルーバルサウスを「グローバリゼーションの圧力と自由主義とコスモポリタニズムの熱望にもかかわらず,ヨーロッパ,北アメリカ,アジアの先進国の問題や物語とまったく異なるものとして,引き続きそれらの問題を考え,それらの物語を構築する国家グループ(注1)」と定義するが,残念ながら,この定義,および,他の多くの論者の定義も,グローバルサウスをグローバルノースと区別する数量的な基準を持っていない。にもかかわらず,2023年1月,インドは,G20議長国として,グローバルサウス125か国が参加する「グローバルサウスの声サミット」を主催したが,中国を招待していない。すなわち,インドは中国をグローバルサウスではないと考えている(注2)。また,同月,日本の岸田文雄首相は,国会答弁で,中国が経済大国であることを理由に,グローバルサウスに含めないとの見解を示している。他の多くの国々も,中国はグローバルサウスではないと考えている。
このように,中国とそれ以外の国の間には,中国をグローバルサウスに含めるか否かに関し,認識のギャップがある。この認識ギャップを埋められるわけではないが,この認識ギャップの存在を明確にするための概念として,筆者は「グローバルサウス+中国」という概念を提唱したい。多くの読者は既に気づいているだろうが,この概念は「G77+中国(G77+China)」からの発想である。まず,こちらからみていく。G77は1964年の国連貿易開発会議(UNCTAD)設立に関連して作られた発展途上国のグループである。1972年の中国の国際社会復帰により,G77側は中国のG77加盟を信じて疑わなかったが,中国は,自国はG77に加盟するのではなく,これを指導する立場だと述べて,加盟しなかった。その結果として,国連用語として「G77+中国」が誕生した。
多くの論者が,このG77の加盟国リストをグローバルサウス諸国として示している。現時点でのG77の加盟国は135か国で,なぜか中国を含んでいる(注3)。これはEU加盟国,CIS加盟国,OECD加盟国,パラオ,ツバルなどを除いた多くの国家によって構成されている。
グローバルサウスに関しても,中国は他の発展途上国と「+」で結び付いた,一体性に乏しいものになってしまっている。しかも,G77においては,自らの意思で,その外側に立ったのに対し,グローバルサウスでは,自らはグローバルサウスだと主張しているにもかかわらず,国際社会全体,特に,他のグローバルサウス諸国は,中国はグローバスサウスではないと考えているのである。このように,国際社会,ないし,発展途上国間における中国の影響力は低下している。そのため,SDTを放棄し,より公明正大な立場で,国際社会,ないし,発展途上国のリーダーの役割を果たそうとしても,十分な成果をあげるのは難しいだろう。グローバルサウス諸国は,アメリカだけでなく,中国とも異なる問題を考え,異なる物語を構築しているのである。
[注]
- (1)Jacqueline Anne Braveboy-Wagner,Institutions of the Global South(London:Routledge,2009).
- (2)国境紛争など他の問題も影響を与えている。
- (3)グローバルサウスのメンバーを特定するための組織は,G77と並んで,あるいは,それ以上に,WTOが望ましい。しかし,WTOには先進メンバーと発展途上メンバーを区別したリストがなく,推測して,自ら作成しなければならない。その結果,筆者を含めて,これが使用されることはほとんどない。
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