世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の家計最終消費支出は回復するのか
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.10.28
家計貯蓄率の上昇
10月9日に発表された日本の4-6月期実質家計可処分所得は,前期比年率換算+7.6%と,1-3月期の同+9.6%に続いて高い伸びとなりました。可処分所得の増大は,雇用者報酬の増加や,定額減税と調整給付金支給による所が大きいようです。
一方,実質家計最終消費支出は5四半期ぶりに増加しましたが,可処分所得の伸びを下回り,家計貯蓄率が上昇しました。家計貯蓄率は2023年10-12月期には−0.1%と小幅マイナスであったものが,2024年1-3月期には+2.8%,4-6月期には+3.7%と大きく上昇しています。減税や給付金等による一時的な所得増は消費支出に回りにくいことや,新NISA開始等で家計の資産形成意欲が高まったことが背景にあるようです。消費支出の回復には,物価を上回る賃上げにより,家計の主たる所得源である雇用者報酬が実質ベースで増えることが必要でしょう。実質雇用者報酬は,2023年10-12月期から3四半期連増で前期比で増加していますが,その間の伸びは年率+0.8%と緩やかなものに留まっています。2024年4-6月期の水準は,コロナ禍直前の2019年10-12月期を3.4%下回っています。
円安で財中心に物価が上昇
家計最終消費支出デフレーターは2012,13年頃を底に下落から上昇に転じています。これは円の実効為替レートが長期的な上昇から下落に転じたのと,期を一にしています。また,財消費支出デフレーターのサービス消費支出デフレーターに対する相対値は,家計最終消費支出デフレーターとの相関が強く,概ね同時期に上昇に転じています。アベノミクス下の大胆な金融緩和策の発動をきっかけに,円安基調に転じたことで,財を中心に消費支出デフレーターが上昇してきたと言えます。
サービス支出を抑制する財価格の上昇
消費財には食料や燃料などの必需品が多く含まれ,家計は財の価格が上がっても支出量を減らしにくく,財に対する支出額が増える傾向があります。その結果,国内家計最終消費支出に占めるサービス支出の比率が低下しています。サービス消費支出比率は2011年には59.6%,2019年には59.0%とコロナ禍前の低下はわずかでしたが,コロナ禍後の2023年には56.2%まで下がりました。サービス消費支出が弱いと,サービスを提供する部門では価格や賃金を引き上げにくいでしょう。公務を含むサービス部門の雇用者数は全体の約75%を占め,経済全体でも賃金が上がりにくいと言えます。
物価を上回る賃上げによって実質雇用者報酬が増え続け,実質消費支出が回復するには,円高による財のサービスに対する相対価格の低下が必要でしょう。ただ,9月23日付の本コラム「インフレ輸出国からデフレ輸出国に転じる米国」でも述べたように,日本と経済的関係が強い中国や米国で供給過剰傾向が強まる中で円高になれば,外需が落ち込んで景気が悪化するでしょう。日本の景気は,2020年5月を景気の谷として既に4年以上拡大局面にありますが,家計は景気回復を実感できない状況が続きそうです。
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