世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
大統領選後に残される米国経済の調整
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.06.10
困難な財政再建への道
米国ではインフレの収束が遅れ、11月の大統領選前に利下げが始まるか定かではありません。ただ、米国経済が迫られている調整は、インフレの収束に留まりません。
米国GDP統計によれば、一般政府(中央・地方政府、社会保障基金の合計)の資本移転分を除く財政収支赤字は、直近の2024年1-3月期まで5四半期連続でGDP比7%を上回りました。歴史的に見ると、景気後退期や回復初期ではない時期としては非常に高い水準です。政府債務残高のGDP比は、2007年末には41.2%であったものが、コロナ禍直前の2019年末には86.9%まで上昇していました。そこから2023年末には105.4%にまで上昇しました。今後、景気が鈍化すれば、税収が減って財政赤字が拡大し、政府債務残高の増大に拍車がかかるでしょう。バイデン氏とトランプ氏のどちらが大統領になっても、財政再建は大統領選後の政権の大きな課題となりそうです。
長期的低下傾向にある労働分配率
米国企業の労働分配率(資本減耗、間接税、補助金を除いた企業純付加価値に対する雇用者報酬の比率)は、2001年10-12月期の83.7%から長期的な低下傾向をたどり、2021年4-6月期には72.0%まで下がりました。その後、若干上昇したものの、2024年1-3月期も74.0%と、歴史的に見ると低い水準です。労働分配率の低下は、企業の取り分の増加を意味し、企業経営者や大株主の所得増大をもたらしています。その結果、所得・資産格差が拡大し、それを通じて社会の分断化を招いていると考えられます。
過去、景気後退時には企業利益が減退して一時的に労働分配率が上昇しましたが、その後の景気回復期にはそれ以前のボトムを下回りました。これから景気が悪化すれば、過去と同様に一旦は労働分配率は上昇するでしょう。ただ、そこで企業が労働コスト削減に動くと、次の景気回復期に労働分配率は現在の水準より下がる可能性があります。さらに、AIの導入で既存の雇用が失われたり、雇用形態が変化したりすることで労働分配率が下がることも考えられます。労働分配率の低下を押し留めることや、労働者間で格差が拡がらないようにすることは、米国経済に留まらず、世界的な課題と言えます。ただ、労働分配率の上昇は企業利益を圧迫し、株価の下落を招く可能性もあり、金融市場に大きなショックを与えずに調整することは容易ではないでしょう。
米ドル高の調整は諸刃の剣
Fedが発表している月次の米ドル実質実効為替レートは、2024年4月時点で1980年以来の平均値を15.0%上回る歴史的高水準にあり、米ドルの割高感はかなり強いようです。米国のGDP統計ベースでの経常収支赤字は、2024年1-3月期にはGDP比3.0%と1980年以降の平均2.5%を若干上回る程度ですが、欧州や中国の景気が鈍化していること等から米国の輸出が鈍ることが予想され、今後、経常収支の赤字幅が拡大しそうです。
上で述べたように財政が悪化しているもとでは、景気後退に陥っても大規模な財政刺激策の発動は難しく、景気回復のためには米ドル安による外需の改善が求められるでしょう。ただ、米ドル安は米国のインフレ圧力を高める点では、諸刃の剣になりかねません。インフレ率が十分に低下した上で米ドル安に転じるように、次期政権とFedが適切な政策運営を行えるのか、インフレ収束の目処がついていない現状では、心許なさは否めません。
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