世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3383
世界経済評論IMPACT No.3383

下げ止まる米国の消費者物価インフレ率

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2024.04.22

サービス物価インフレ率は足元で再加速

 米国の消費者物価指数を財とサービスに分けると,直近の3月に財物価は6ヵ月前比年率換算値で見て1.1%下落しました。さらに財を耐久財と非耐久財に分けると,耐久財物価は−3.5%と大きく下落し,7か月連続のマイナスとなりました。非耐久財は−1.0%と耐久財より小幅の下落ですが,2か月連続のマイナスです。一方,サービス物価は3月には+6.0%と大きく上昇しています。サービス物価の6ヵ月前比年率換算上昇率は,2022年9月に+8.7%に高まった後,昨年8月には+4.0%まで低下しましたが,そこから再加速しています。財物価のデフレとサービス物価のインフレが併存した状態にあります。過去を見ると,サービス物価は財物価よりも振れが小さく,安定的に推移しています。さらにサービスの消費者物価指数におけるウェイトは約64%と,財の約36%を大きく上回っています。こうした点では,米国のインフレ圧力は,サービス物価を中心に根強いと言えます。

立たない利下げの見通し

 価格が変動しやすい食品,エネルギーを除いたいわゆるコア消費者物価も,6ヵ月前比年率換算値で見ると,昨年11月の+3.1%から3月には+3.9%へ上昇率を高めています。さらに,コア消費者物価よりも短期的な変動が小さく,インフレ率の基調を示す消費者物価中央値の6ヵ月前比年率換算上昇率は,3月には+4.7%と,コア消費者物価インフレ率より高くなっています。

 2000年5月から政策金利であるフェデラルファンズ金利の目標値が6.5%で据え置かれた後,2001年1月に利下げに転じた時,コア消費者物価と消費者物価中央値の上昇率は+2.7%,+3.1%でした。2006年6月から政策金利が5.25%で据え置かれ,2007年9月に利下げに転じた時は,それぞれ+2.1%,+2.8%でした。現在のインフレ率はそれらの時よりかなり高い水準です。こうした点では,Fedが現在の5.25~5.5%という政策金利の目標レンジをいつ引き下げるかを見通すことは困難なようです。

利下げは失業率の上昇テンポ次第

 ただ,過去の利下げは,インフレ率が低下トレンドに入る前に生じています。インフレ率の低下は景気後退に入ってから本格化し,景気回復初期まで続く傾向があります。

 失業率と消費者物価中央値が示す基調的インフレ率の関係を示したいわゆるフィリップス曲線を見ると,2021年以降,失業率が低下するとインフレ率が上昇し,失業率が上昇するとインフレ率が低下するという負の相関が見出されます。直近の3月の値は,そうした2021年以降のトレンドに概ね沿っています。この関係を基にすれば,2%に向けて基調的インフレ率が低下するには,失業率が少なくとも5%台まで上昇することが必要なようです。失業率は昨年4月の3.4%から今年3月には3.8%へ上昇していますが,こうした緩やかな上昇に留まっていては,基調的インフレ率が下がる目処がつかず,年内の利下げは難しそうです。利下げ開始のタイミングは,いつ失業率の上昇テンポが速まり,景気後退懸念が高まってくるのかに依存していると考えられます。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3383.html)

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