世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3304
世界経済評論IMPACT No.3304

第7次エネルギー基本計画の三つの焦点

橘川武郎

(国際大学 学長)

2024.02.19

 2025年11月にブラジル・ベレンで開催される予定のCOP30(第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では,世界各国が,35年に向けた温室効果ガスの削減目標を持ち寄ることになっている。それへ向けて,日本でも,今年から25年夏にかけて,第7次エネルギー基本計画(第7次エネ基)の策定作業が進むことになる。

 第7次エネ基では,何が焦点となるだろうか。

 この点を考察する際に足掛かりとなるのは,広島で開催されたG7(先進7ヵ国首脳会議)の本会議に先立って,2023年4月に札幌で行われた主要7ヵ国のエネルギー・環境担当大臣会合において,「35年に温室効果ガス(GHG)の排出を19年比で60%削減する」ことが共同声明に盛り込まれたという事実である。日本は,G7の開催国として,この新しい削減目標を事実上“国際公約”したことになる。ちなみに,この目標数値は,昨年12月のCOP28の合意文書にも盛り込まれた。

 日本のこれまでの国際公約は,「30年に温室効果ガスの排出を13年比で46%削減する」というものであった。「35年GHG 19年比60%削減」という新しい国際公約は,従来の基準年に合わせて「13年比」に換算すると,「66%削減」を意味する。期限が30年から35年へ5年間延びるとはいえ,削減比率は46%から66%へ20ポイントも上積みされるのである。

 上積みされる新目標を達成するためには,わが国は,異次元のエネルギー政策転換を実現しなければならない。この政策転換こそが,第7次エネ基の焦点となる。

 異次元の政策転換の第1の柱は,徹底した省エネ・節電を行うことである。現時点で効力をもつ21年策定の第6次エネルギー基本計画は,年間電力消費量について,50年までに30〜50%増えるものの,その手前の30年までは10%以上減るという矛盾した見通しを示した。電化の進展により電力消費量は増加するというのが政府の基本的認識であったが,30年の再生可能エネルギー(再エネ)電源比率および原子力発電比率を高く設定するためには,分母である電力消費量を減少させざるをえなかったのであり,このようなトリックを用いたのである。しかし,第7次エネ基の策定にあたっては,トリックではなく現実問題として,35年および50年の電力消費量見通しを相当程度下方修正する必要が生じる。

 政策転換の第2の柱は,再エネの導入規模を抜本的に拡大することである。「35年GHG 19年比60%削減」という新しい目標を達成するためには,二酸化炭素を排出しないゼロエミッションのエネルギー源を大幅に拡充しなければならない。それは再エネと原子力とであるが,残念ながら,既存炉の運転期間が延長されるだけで次世代革新炉の建設が一向に進まない原子力を,頼りにするわけにはいかない。結局,再エネの拡大しか,道はないのである。

 第3の柱は,再エネ電源がもたらす出力変動をバックアップするカーボンフリー火力の開発を急ぐことである。基本的な原材料を中国に依存する蓄電池のバックアップ能力には,限界がある。火力によるバックアップが不可欠になるが,それは,二酸化炭素を排出しないカーボンフリー火力でなければならない。石炭火力をアンモニア火力に,ガス火力を水素火力に,それぞれ転換することが求められる。

 省エネの徹底,再エネの拡大,カーボンフリー火力の開発が,第7次エネ基の焦点となる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3304.html)

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