世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3944
世界経済評論IMPACT No.3944

サステナブル製品に対する消費者理解の示唆

白井美由里

(慶應義塾大学商学部 教授)

2025.08.11

 猛暑や暴風雨などの異常気象,それに伴う干ばつや洪水などの災害が各地で頻発するようになり,地球温暖化の影響がより身近な問題として認識されるようになってきた。温暖化の進行を遅らせるためには,環境に配慮した行動が企業にも消費者にも求められる。サステナブル・マーケティングの観点からは,企業はサステナブルな製品を製造し,それらを消費者に訴求する必要がある。一方,消費者にはそうした製品に関心を示し,積極的に選択する姿勢が求められる。こうした流れが形成されれば,環境負荷の軽減に貢献し,現在の消費者および将来世代の生活の質とウェルビーイングの向上につながる可能性が高まる。

 しかし,サステナブル製品が増えているにもかかわらず,消費者による採用のスピードが遅いことがしばしば指摘されている。たとえばアメリカでは,消費財(CPG)のうち環境問題や社会課題への配慮を示した新商品が全体の半分弱を占めているにもかかわらず,2021年の市場シェアはわずか17%にとどまり,2015年からの上昇幅も3ポイントに過ぎないと報告されている。こうした「サステナブルな製品を作ったものの売れない」といった状況は,日本でもしばしば耳にすることがある。消費者は好意的な態度や関心を示しながらも,なかなか購買には至らない。消費者を理解するのは難しいが,先行研究をもとに注意すべき点を挙げてみたい。

 世の中の動きを踏まえれば,企業が「サステナブルであれば売れる」と考えるのは自然なことである。しかし,それは消費者の購買行動の根本構造を見誤っている可能性がある。まず,消費者にとって重要なのは製品の基本的な属性である。つまり,根本的な真実は,製品に付随する環境や社会に関連するベネフィットは,消費者にとって主要な属性ではないということである。購買はニーズがあって初めて生じるものであり,まずはそのニーズを満たすことが重視される。たとえば,プロテインバーを購入するのは,手軽に美味しくプロテインを摂取したいからであり,「環境に配慮したいからサステナブルなプロテインバーを買う」というわけではない。仮にサステナビリティが消費者にとって重要な属性であったとしても,それはニーズが満たされることを前提としたうえで,「次」に注意が向けられる副次的な要素にすぎない。この点を見落とすと,消費者がサステナブル製品に抱く欲求を過大評価してしまうおそれがある。

 さらに,企業がサステナビリティ属性を従来の製品に付加価値を加えるものとして捉える場合,この見方にも注意が必要である。実際には,サステナビリティ属性は製品の主要な属性と相互に作用し,その意味や価値に影響を及ぼす可能性が高い。サステナビリティ属性が主要な属性と対立して価値を損なう場合もあれば,逆に共鳴して価値を高める場合もある。このように,サステナビリティ属性には,他の属性との関係の中で意味づけられる側面がある。

 たとえば,「汚れを落とす」ことが主要な属性となる洗濯用洗剤やカーシャンプー,クリーナーなどでは,サステナビリティが洗浄効果を弱める印象を与え,価値が低く評価される傾向にある。これは,サステナビリティと洗浄力の間に,一方を得ればもう一方を失うというゼロサム的な思考が働くためである。このような現象は「サステナビリティ負債」と呼ばれ,靴などのように耐久性が重視される製品にも生じやすい。一方で,「肌にやさしい」ことが主要な属性となるベビーシャンプーや基礎化粧品などでは,サステナビリティの属性が製品価値をさらに高める方向に働く。この違いは,サステナビリティが「安全」「マイルド」「健康」といったイメージとは結びつきやすい一方で,「強さ」「頑丈」「しっかり仕事をする」といったイメージとは結びつきにくいことによって生じている。もちろん,こうした関係は,知識や経験の蓄積によって変化していく可能性があるが,それには時間がかかる。

 さらに,企業は消費者を一様に捉えるのではなく,少なくとも「アクティブ層」「中間層」「無関心層」の三つのタイプに分けて捉えることが勧められる。サステナビリティ属性が製品の主要属性と共鳴する場合には,価格プレミアムの設定が比較的容易であり,アクティブ層だけでなく中間層もターゲットとすることが可能である。無関心層に対しては,価格プレミアムの正当化が課題になるものの,主要属性との結びつきを訴求し続けることで,関心を引き出せる可能性がある。一方,サステナビリティ属性が主要属性と結びつかない場合には,アクティブ層のみを主なターゲットとするのが妥当である。ただし,中間層に対しては,サステナビリティ属性を消費者のベネフィットに関連づけた訴求を継続することで,関心を高められる可能性がある。たとえば,サステナブルな洗濯用洗剤にすすぎ回数を減らせる効果があるのであれば,「水道代の節約につながる」といった具体的な利点も併せて伝えることが挙げられる。

 以上のことから,企業がサステナブル製品の受容を促進するには,製品の主要属性とサステナビリティ属性との結びつきや,消費者ニーズとの関係性を精緻に見極めることに加え,消費者の多様性にも目を向け,それぞれの関心度や期待に応じた訴求方法を検討することが求められる。

[参考文献]
  • Dalsace, F. & Challagalla, G. (2024). How to market sustainable products. Harvard Business Review, March-April.
  • Gathen, A. von der, Eckert, N. B., & Kastbjerg, C. (2025). The myth of the sustainable consumer. MIT Sloan Management Review, 66.
  • Luchs, M., Naylor, R. W., Irwin, J. R., & Raghunathan, R. (2010). The sustainability liability: Potential negative effects of ethicality on product preference. Journal of Marketing, 74.
  • Wood, S., Robinson, S., & Poor, M. (2018). The efficacy of green package cues for mainstream versus niche brands: How mainstream green brands can suffer at the shelf. Journal of Advertising Research, 58.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3944.html)

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