世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米景気は減速も3月利下げの公算は低い
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.01.15
製造業は後退が続き,非製造業はすれすれ
米国で1月3日に発表された12月分ISM(全米供給管理協会)製造業景気指数は47.4と,前月の46.7から上昇したものの,景気の強弱の分岐点である50を14か月連続で下回りました。一方,5日発表の非製造業景気指数は12か月連続で50を上回ったものの,12月は50.6と前月の52.7から低下し,強弱の分岐点に接近しました。製造業では景気後退が続いているのに対し,非製造業は減速しながらも緩やかな成長が続いていると見られます。
自然失業率水準への上昇の気配は弱い
5日発表の12月分雇用統計によれば,失業率は3.7%となり,8月以降概ね横這いで推移しています。Fedは労働需給の均衡状態を示す自然失業率を4.1%と想定しており,それを下回っている点では,労働需給はまだひっ迫した状態にあると言えます。失業率を算出する際に用いられる雇用統計の家計調査による就業者数は,12月時点で前年同月比+1.2%,労働力人口は同+1.5%です。今後も両者がこのペースでの伸びを続ければ,失業率は半年で0.14%上昇する計算になります。今後数か月で失業率が自然失業率の水準に迫る状況にはないようです。
雇用統計の事業所調査に基づく非農業部門の就業者数は,12月には前月比+21.6万人と,10月の+10.5万人,11月の+17.3万人を上回る伸びとなりました。しかし,10,11月分が下方修正されたことを考慮すると,堅調とは言いにくいようです。民間非農業部門の就業者数に平均労働時間を掛け合わせた総労働時間は,労働投入量の指標であり,実質GDPと相関があります。12月には前月比では0.2%減少しました。前年同月比では+1.2%と,2021年12月の+5.7%,2022年12月の+2.4%から鈍化しています。総労働時間に時間当たり賃金を掛け合わせた賃金総額は,労働者の所得の指標であり,名目GDPと相関があります。前年同月比増加率は,2021年12月の+11.0%,2022年12月の+7.2%から,2023年12月には+5.4%へと減速しています。総労働時間と賃金総額の動きから見て,足元の実質・名目GDP成長率はそれぞれ年率+2%程度,+5%程度と推察されます。
米国の利下げ時期は日本の金融政策にも影響
ISM景気指数や雇用統計などから見れば,米国経済は景気減速,インフレ収束の方向にはあるものの,景気後退には至っておらず,労働需給の逼迫は解消されていないようです。金利先物市場は,3月19,20日のFOMCまでに利下げが行われることを,6,7割織り込んでいますが,実際には利下げの公算はもっと低そうです。
米国で当面の利下げ期待が後退すると円安ドル高になりやすく,それによって能登半島地震などで後退した日本のマイナス金利脱出の機運が,再び高まる可能性があります。1月23日の日銀政策決定会合では難しいでしょうが,3月19日か4月26日の会合ではワンチャンスあるかもしれません。逆に言えば,そこを逃すと,米国および世界の景気鈍化や円高の進行などにより,2024,25年にそうした機会が再び訪れることはないようにも思います。
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榊 茂樹
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