世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3220
世界経済評論IMPACT No.3220

米国のインフレ率はさらに下がるのか

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2023.12.11

耐久消費財価格は下落

 米国の10月分個人消費支出価格指数の前年同月比上昇率は,+3.0%と9月の+3.4%から低下した。前年同月比より足元の動きを示す6ヵ月前比年率換算値は,+2.5%とさらに低くなっている。米国のインフレ率は,このままFRBが目標とする2%に向かって下がり続けるのだろうか。

 個人消費支出を財・サービス別に見ると,耐久消費財の価格は,10月には6ヵ月前比年率換算値−3.0%とかなり下落している。コロナ禍のもと耐久消費財の需要が増え,個人消費支出に占める比率は一旦急上昇したが,経済の正常化につれて低下に転じている。耐久消費財の需要鈍化が価格下落を招いているようだ。コロナ禍前も生産性向上に伴って耐久消費財の価格は中期的に年率1,2%程度下落していたが,足元の価格下落率はそれを上回っている。このままのペースでの価格下落が続くと,耐久消費財関連企業の採算が急激に悪化する。今後,企業は生産・輸入量を削減して,価格下落を抑えようとするだろう。

賃上げが押し上げるサービス消費価格

 個人消費支出の約3分の2を占めるサービス消費支出の価格は,耐久消費財に比べて変動が小さい。それでも6ヵ月前比年率換算上昇率は,年初の+6.6%から10月には+3.6%まで低下した。電力,ガスなどのエネルギー関連サービスの価格上昇が鈍ったことの影響が大きい。ただ,サービス消費支出は,コロナ禍で急減した所から回復の途上にある。サービス消費支出が個人消費支出に占める比率は足元で上昇傾向にあるが,まだコロナ禍前の水準より低い。サービス関連企業には娯楽・接客業など賃金水準が相対的に低い所が多く,需要回復に応じて雇用を増やすには,大幅賃上げが必要となる。そのため,サービスの価格も上げざるをえない。サービス消費支出の価格上昇率は,現在の3%台から下がりにくいだろう。

 耐久消費財の供給削減で価格下落が鈍り,サービス消費の価格上昇率が賃上げで下がりにくいとすれば,個人消費支出価格全体の上昇率は下げ止まり,当面年率2%台後半から3%程度で推移しそうだ。

利下げ開始のタイミングは雇用情勢次第

 インフレ率の低下と景気鈍化の兆しによって利上げ打ち止めの公算が高まっている。12月12,13日のFOMCでも利上げ見送りは確実視されている。ただ,利上げが打ち止めになっても,上に述べたように,インフレ率が足元の水準から当面大きく下がらなければ,すぐに利下げに転じるのは難しいかもしれない。その点では,失業率などの雇用関連指標の注目度が増しそうだ。FRBは物価安定と最大雇用のデュアル・マンデート(二重の責務)を負っている。これまでのように失業率が低水準で推移していた時には,インフレ抑制に専念することができた。しかし,失業率が均衡水準とされる4%を大きく上回ってくると,雇用への配慮も必要になる。また,失業率が上昇すると,サービス関連企業も含めて賃上圧力が低下し,インフレ率の継続的低下にもつながるだろう。今回のFOMCでも,FOMC参加者の2024年の経済見通しやパウエル議長の記者会見などから,雇用情勢が利下げのタイミングに与える影響について,どのような示唆が得られるかに注目したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3220.html)

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