世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3156
世界経済評論IMPACT No.3156

国内でメタネーションに取り組む意義

橘川武郎

(国際大学 学長)

2023.10.16

 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策委員会ガス事業制度検討ワーキンググループは,2023年6月に開催した第31回会合で,「都市ガスのカーボンニュートラル化について」と題する中間整理を取りまとめた。この中間整理の一つの特徴は,国内におけるメタネーションの重要性を強調した点にある。

 中間整理は,二酸化炭素(CO2)と水素から合成メタン(e-methane)を生成するメタネーションについて,「合成メタンの製造コストの大半を再エネ電気のコストが占めることから,大手ガス事業者等は,安価な再エネ電気(又は水素)が大量に入手できる海外で合成メタンを製造し,日本に輸入するビジネスモデルを志向しており,現在,安価な再エネ電気,原料(二酸化炭素,水(水素)),天然ガスパイプライン,LNG液化・出荷基地等の条件を満たす,海外の生産適地を幅広く調査している」と述べて,ひとまず,事業地が海外になると見通している。しかし,一方では,「国内におけるメタネーションの検討・実証の類型としては,(ア)ガス事業者と地域の産業の連携により,工場から排出された二酸化炭素を回収し水素とメタネーションをして,都市ガス導管を通じて合成メタンを供給するモデル,(イ)清掃工場から排出される二酸化炭素を回収し水素とメタネーションし,地域のエネルギーとして再利用するモデル,(ウ)製鉄所の高炉においてカーボンリサイクルを行いコークスに代わる還元材として合成メタンを用いるモデル等がある」として,国内メタネーションの可能性にも言及している。そして,「国内メタネーションの実用化にあたっては,水素又は再エネ電気の安価な供給確保が重要であるところ,今後の水素拠点の整備の進展によって,臨海部における関係者連携の下での国内メタネーションの進展も期待し得る」とも記している。

 2023年6月に開かれたメタネーション推進官民協議会のCO2カウント・国内メタネーション実現共同タスクフォースで,「中部圏におけるメタネーション地域連携について」と題する報告を行ったアイシン・デンソー・東邦ガスの3社は,国内メタネーションの必要性,緊急性を強く訴えた。その際力説したのは,次のような論点であった。

  • ・グローバルに事業展開する製造業界として,海外顧客企業からのモノづくりのカーボンフットプリント(CFP)に対する要求が厳しさを増しており,対応は待ったなしの状況。
  • ・国内でのモノづくり継続には,できるだけ早いタイミングでグローバルに価値が認証されたカーボンニュートラルなエネルギーが安定・安価に供給されることが必須。
  • ・産業部門の需要家における熱需要の脱炭素化手段として,e-methaneはエネルギーとしての使い勝手の良さに加え,既存インフラ・利用技術・ノウハウの集積等の観点を踏まえると,他の脱炭素手段と比べても非常に魅力的な選択肢と認識。
  • ・e-methaneのグローバルな価値認証においては,CO2原排出者(回収側)と回収したCO2由来のe-methane利用者(需要家)との間の環境価値の帰属に関する整理が重要。
  • ・CO2の循環利用により環境価値の帰属が明確になり,CO2カウントに関する議論が不要となるCO2循環型メタネーションモデルを考案。まずはアイシン,デンソー,東邦ガスの3社により,本モデルの簡易なフィージビリティスタディなどを実施。
  • ・日本の製造業の生き残りにも繋がるものであり,今後のGX関連政策のなかでも,支援に向けた議論が必要。

 ここでアイシン・デンソー・東邦ガスの3社が打ち出しているCO2循環型メタネーションモデルは,いわゆる「オンサイト・メタネーション」を発展させたものである。これまでメタネーションは,都市ガス業界が主として進めるものと考えられてきた。しかし,2030年に1%というe-methane注入率の目標からわかるように,都市ガス事業におけるメタネーションは,すぐに進展するわけではない。それが本格化するのは,2030年代以降のことになるだろう。これに対してオンサイトメタネーションは,都市ガス事業におけるメタネーションに先行して,20年代にも進行する蓋然性が高い。そう見通すのには理由がある。

 それは,部品メーカーに対して,製造工程でCO2を排出しないように求める最終製品メーカーからの圧力が強まっているからである。今後は,サプライチェーン全体でのカーボンフリー化を達成するため,CO2を排出する工場からの部品供給は受け付けないという最終製品メーカーが増えるだろう。当初は,電気利用に関してRE100(使用電力の100%を再生可能エネルギーにより発電された電気で賄うこと)の実施を求めることから出発し,やがては,熱利用に関してもカーボンフリーの燃料の使用を要求するようになることは必至である。したがって,メタネーション等により自社工場のカーボンフリー化を実現することは,部品メーカーにとって死活問題となる。部品メーカーのあいだでオンサイトメタネーションへの期待が高まるのも,当然のことなのである。

 アイシン・デンソー・東邦ガスの3社が取り組むのは,アイシンとデンソーの工場で回収したCO2を東邦ガスの緑浜工場に陸送し,そこで水素とマッチングしてe-methaneを製造したうえで,それをアイシンとデンソーの工場で再利用する,オンサイトメタネーションを発展させた「CO2循環型メタネーションモデル」である。国内メタネーションを地で行くモデルであり,都市ガス業界が主として進める海外メタネーションとは,明らかに異なる。われわれは,海外メタネーションという選択肢だけでなく国内メタネーションという選択肢にも,きちんと目を向けなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3156.html)

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