世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3068
世界経済評論IMPACT No.3068

2024年大統領選挙:再度バイデン・トランプの選択か

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2023.08.14

3回の起訴,合計80件の重罪容疑

 現時点までで,トランプ前大統領(以下トランプと略)は3件の刑事事件で3回起訴され,重罪容疑は合計80件に達した。これに,近くジョージア州フルトン郡地検による起訴が加わることになる。前大統領がこれほど多くの重罪で起訴されたにもかかわらず,起訴は共和党有権者には大きな影響を与えていない。このため,トランプは依然として共和党の最有力候補であることに変わりはない。残念なことに,これが民主,共和両党で分断された米国の現実なのだ。

 3回の起訴のうち最初が,今年3月30日,ニューヨーク郡マンハッタン地区検事アルビン・ブラッグによる起訴。トランプがポルノ女優に支払った口止め料13万ドルに関する業務記録改竄の重罪34件(本誌4月17日,No.2918で詳報)。公判は来年3月25日に開かれる。共和党の大統領候補を一人に絞り込む予備選挙・党員集会は,来年1月15日のアイオワ州党員集会から始まり,3月は5日のスーパーチューズデー(15州で予備選挙)を含め全米26州で行われる。次の2回目,3回目の起訴による公判も,各州の予備選挙・党員集会と並行して進むことになる。

 2回目と3回目の起訴は,ガーランド司法長官が任命したジャック・スミス特別検察官によって行われた。2回目の機密文書保持に関する罪状は,6月8日の起訴時点では,重罪38件だったが,7月27日公表された起訴状では罪状は42件に増やされた。その内訳は,国家安全保障に関わる機密情報の意図的な保持32件,側近らとともに文書の返却を阻止,監視カメラの映像削除などの捜査妨害7件,トランプと側近2名による偽証3件である。

 3回目の起訴がトランプ事件の本命。2020年11月の大統領選挙の敗北を覆し,大統領職を奪取しようとしたいわゆるトランプ・クーデター事件である。8月1日,スミス特別検察官は4つの罪状でトランプおよび6名の共謀者(名前は公表されていないが,トランプの個人弁護士で元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ,偽の選挙人と入れ替えてトランプ当選を画策したカリフォルニア州チャップマン大学のジョン・イーストマン前法学教授が含まれているとみられる)を告発した。罪状は,第1が国家詐取,第2が大統領選挙手続きおよび選挙人団による大統領選出投票の妨害,第3が国民からの公民権および投票権の剥奪,第4にトランプによる公式な手続きの妨害および妨害の意図である。

 2021年1月6日,トランプが議事堂近くに終結した数千人のトランプ支持者を扇動し,議会に乱入した暴徒が両院合同会議で行われていた選挙人確定作業を妨害し,警官など合計7人が死亡した事件の全容は,下院の1.6特別調査委員会の公聴会および昨年12月に同委員会が発表した全845ページの最終報告書に詳述されている。スミス特別検察官が昨年11月に就任し,僅か9ヵ月余りで起訴できたのも下院調査委員会の活動によるところが大きい。筆者は,本誌で数回に亘って下院1.6特別調査委員会の活動を報告してきたが,起訴状には議事堂襲撃事件の全貌が細かく記述されている。

トランプ支持に影響なし,バイデンの支持率は低迷

 3回の起訴後,筆者は共和党の大統領候補の中で突出したトランプ支持に変化がないことを知って,改めて米国分断の現実を知らされた。3回目の起訴後に行われた世論調査によると,共和党支持者の86%が「トランプ起訴はトランプの2024年大統領選挙活動を阻止する試み」と答え,民主党支持者の88%は「法の支配堅持のため」,82%が「民主主義の擁護のため」と答えている(8月6日発表のCBS News Poll,8月2~4日実施)。また,ニューヨークタイムズが上下両院の共和党271議員を分析した結果によると,トランプを非難したのはDon Bacon下院議員(ネブラスカ州)だけで,他の議員は起訴のタイミング,動機などを攻撃している(6月16日付同紙)。

 共和党大統領候補者別の支持率は,7月31日に発表されたニューヨークタイムズ/シエナ大学の世論調査(3回目の起訴前の7月23~27日実施)によると,トランプ54%,フロリダ州知事デサンティス17%と,37%ポイントの大差でトランプがデサンティスをリードしている。トランプ起訴でトランプを批判する共和党候補者は,議会襲撃事件後トランプと袂を分かったペンスおよびトランプに最も批判的なニュージャージー州元知事のクリスティ以外にはいない。しかし,彼らの支持率は2~3%で支持は共和党有権者に広がっていない。

 有力と見られていたデサンティスはトランプに同調し続けたが,苦戦を続けている。リベラルな覚醒思考を攻撃する主張も支持を広げることができず,8月初旬,「2020年選挙でトランプは負けた。勝ったのはバイデンだ」と初めて述べた(NBCのインタビュー)。デサンティスが,トランプを批判する共和党穏健派に近づけば,支持率はさらに低下すると言われる(ネイト・コーン,ニューヨークタイムズの首席政治アナリスト)。

 なお,ネイト・コーンは,現代の大統領予備選挙のこの段階で,最有力ライバルを少なくとも20%ポイント引き離している候補者が党の指名を逃したことはこの半世紀で一度もないと指摘している。このままで行けば,トランプが共和党の大統領候補者として指名されることは間違いない。

 もし今選挙だとして誰に投票するか。この質問に対して,上記のニューヨークタイムズ/シエナ大学調査によると,全登録有権者ではバイデン43%,トランプ43%と同率になった。2024年大統領選挙がバイデンかトランプの選択になれば,現職大統領のバイデンの方が有利とみられていたが,いまや状況は違ってきたようにみえる。経済が好調なのにバイデンの支持率は約39%で低迷している。この調査では,「その他・わからない」が14%を占める。彼らが実際にどちらに投票するかが大きく影響する可能性も高い。近年の大統領選挙は,8つ余りの接戦州が帰趨を握っている。

 共和党の全国党大会は来年7月15~18日ウイスコンシン州ミルウォーキーで開かれる。その時トランプが大統領候補者と指名されるかどうかは,同時並行で進むトランプ公判とその他裁判の動向,米国および世界における新事態の発生とその展開など多様な要因が絡んでいる。予断を排して事態を注視していかねばならないだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3068.html)

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