世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2991
世界経済評論IMPACT No.2991

有識者会合とは何だったのか?:志賀原子力発電所2号機の敷地内断層の活動性否定

橘川武郎

(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)

2023.06.12

 原子力規制委員会は,2023年3月3日に開いた会合で,北陸電力・志賀原子力発電所2号機の敷地内断層について,12〜13万年前以降活動しておらず,活動性はないと結論づけた。今後も,地震動評価に向けた敷地周辺の断層調査,津波や火山活動の影響調査などが続くが,志賀2号機の再稼働にとっての最大の障害がようやく取り除かれたとみなすことができる。

 ここで「ようやく」という言葉を使ったのは,志賀2号機の敷地内断層の評価には,あまりにも長い時間がかかったからである。11年3月の東京電力・福島第一原子力発電所事故を受けて,経済産業省資源エネルギー庁内に置かれていた原子力安全・保安院が廃止され,独立性の強い3条委員会として原子力規制委員会が発足したのが12年9月。13年7月には原子炉等の設計を審査する新しい規制基準が施行され,原子力規制委員会が設置した有識者会合で志賀原子力発電所の敷地内断層に関する検証が始まったのは,14年2月のことである。それから,9年1ヵ月。「ようやく」,敷地内断層の活動性を否定する最終結論に到達したのである。

 志賀原子力発電所2号機の敷地内断層の検証が長引いた最大の要因は,有識者会合が16年4月に,「限られたデータではあるが,活動性を否定できない」とする評価書を,原子力規制委員会に提出したからである。この評価書に対しては,当初から,専門家のあいだで科学的根拠が十分でないとの批判の声があがっていたが,結果的には,評価書の内容がひとり歩きすることになった。

 当時,原子力規制委員会は,志賀原子力発電所についてだけでなく,東北電力・東通原子力発電所,日本原子力発電・敦賀発電所,関西電力・美浜発電所,関西電力・大飯発電所,高速増殖原型炉・もんじゅについても,それぞれ「敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」を設け,検証を進めた。これらの有識者会合は,法的な位置づけが不明確であったにもかかわらず,そこでの議論は,敷地内断層の評価に大きな影響を及ぼした。

 原子力規制委員会は,志賀2号機の敷地内断層の活動性否定決定から12日経った23年3月15日の会合で,この決定について有識者への意見照会を行わない方針を打ち出した。そうだとすれば,当然,次のような疑問が浮かぶ。「あの有識者会合とは,一体何だったのか?」。

 筆者は,原子力規制委員会について,総じて良い仕事をしているという印象を持っている。その根拠は,原子力推進派も原子力反対派も,原子力規制委員会を批判し続けているからである。両派から批判を受けているということは,原子力規制委員会がどちらかに偏らず,公平に仕事をしていることを示唆している。筆者の肯定的印象は,この点に基づいている。

 原子力規制委員会がさらに良い仕事をするためには,一連の原子力発電設備の敷地内断層の評価のために設置した有識者会合の活動それ自体を,きちんと再検証する必要がある。有識者会合の議論の内容やメンバーの選定に,問題はなかったのか。問題があったとすれば,なぜそうなったのか。そもそも,有識者会合は必要だったのか。原子力規制委員会の3月3日と15日の会合の結果をふまえて,これらの諸点を今こそ掘り下げるべきである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2991.html)

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