世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2916
世界経済評論IMPACT No.2916

台湾を脅かす中国と米海軍の抑止力:米太平洋艦隊司令官は何を語るか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2023.04.17

 台湾海峡の緊張の高まりに合わせて,米・CBSニュース番組「60 Minutes」(2023年3月19日放送)は,空母ニミッツにおいて太平洋艦隊司令官サミュエル・パパロ(Admiral Samuel PAPARO,以下,パパロ)海軍大将にインタービューを実施,「中国海軍力の強化が台湾を脅かす中での米海軍の対応(The State of U.S. Navy Force and Threatens Taiwan)」をまとめた。

 米海軍は,2度の世界大戦と冷戦で確実な勝利を収めた。今日,中国海軍は世界最大規模の軍艦数を保有する。米国の同盟国である台湾へ侵攻する脅威が高まる中,米海軍はこれを抑止できるのか。本稿ではノラ・オドネル(Noran O’Donnell,以下,ノラ)のインタービューの概要を紹介する。なお,紙幅の関係上,一部をカットする。

  • ノ ラ:大将は40年間海軍で勤務しているが,西太平洋はどのように変化したのか。
  • パパロ:2000年頃,人民解放軍の戦艦数は約37艘だった。しかし現在は,350艘を擁する。新任の中国外務大臣秦剛は,「中国に対する姿勢を変えない限り,“衝突と対立”は不可避」と米国に厳しく警告した。昨年8月,ペロシ下院議長(当時)が訪台し,中国はこれを「あからさまな挑発」と呼び,台湾周辺海域に弾道ミサイルを発射し,軍用機と軍艦を派遣して台湾を包囲した。
  • ノ ラ:ペロシの訪台後のように,中国がミサイル,軍用機,軍艦を使って台湾に侵攻しようとした場合,米海軍はどう応対するのか。
  • パパロ:CIAによると,習近平国家主席は人民解放軍に対し,2027年までに台湾を武力で奪還する準備を整えるよう命じた。米海軍の応対は,米大統領と議会が決定する。それに備えるのが私たちの義務だ。台湾侵略を阻止するための命令が下された場合,西太平洋に急航する準備はできている。バイデン大統領はCBSニュースの「60 Minutes」を含め 4 回にわたり,台湾を防衛すると宣言した。台湾は民主主義であり,高度な半導体の世界有数の生産国である。空母ニミッツは救援のためにグアム島に係留している。
  • ノ ラ:米国海軍で最強の軍艦は何か。
  • パパロ:空母だ。搭載した戦闘機は1日あたり150回の出撃が可能で,1日当たり900発の精密誘導弾を発射する能力がある。
  • ノ ラ:中国は現在世界で最も多くの軍艦を持っているが,空母に関してはこの水準に至っていないのか。
  • パパロ:現在,中国は空母を2艘(遼寧号,山東号)保有している(筆者注:そのほかに建造を終えた福建号がある)。中国のディーゼル空母2艘と対峙しているのは,約1,000機の攻撃機を搭載できる米軍の原子力空母11艘で,これは地球上のすべての国の海軍を合わせた数よりも多い。
  • ノ ラ:中国の対空戦力は向上しているのか。
  • パパロ:向上している。ただし,安全性が低く,プロ意識にも欠けている。国際空域で,他国の航空機の乗組員に対し,搭載された武器を見せびらかすなど威圧的でもある。そして西太平洋における人民解放軍は攻撃的だ。領土の侵略,違法漁業,南シナ海の島礁に基地を建設などもしている。先週,米国は英国,オーストラリアと,太平洋を哨戒する原子力攻撃型潜水艦を共同開発する協定に調印した。中国共産党は南シナ海,台湾海峡と東シナ海を含む西太平洋を虎視眈々と狙っている。中国の指導者たちは台湾を「第一列島線」の中枢と呼んでいる。台湾は,世界の商業海運の約50%が運航する太平洋とシーレーンの戦略的要衝だ。
  • ノ ラ:「米国が中国を封じ込めようとしている」と中国は非難している。貴見は如何か。
  • パパロ:封じ込める必要がない。大きな意味で,米国は中国を封じ込める理由がなく,単に中国が国際ルールに従うことを米国は求めているだけだ。中国の海軍は,今や世界最大規模である。中国国営メディアからの画像が示すように,中国は,海上戦闘の国際ルールを書き直すために,9,000マイルの海岸線を利用している。中国の軍隊は,東風(DF)-21やDF-26で艦船を標的に,長距離精密誘導兵器を大量に投入している。人民解放軍のロケット部隊は,このミサイルを「空母キラー」と呼び,中国奥地の砂漠に空母ニミッツに似たモックアップ(模型)を作り,襲撃の練習を行っている。
  • ノ ラ:人民解放軍のロケット部隊をどう見ているか。
  • パパロ:ロケット部隊については憂慮している。毎日,対抗できる戦術,技術,手順を駆使し,防御できるシステムを開発している。
  • ノ ラ:米海軍は,中国本土からどのくらい離れた場所だと攻撃されるか。
  • パパロ:距離は1,500海里。標的を定めれば,その空母を攻撃することができる。米海軍の計画担当者は,中国のロケット弾を回避する方策だけでなく,反撃する方策も開発している。グアム近辺から,空中給油機なしで台湾に接近できる航続距離は,この空母搭載の軍機しかない。ニミッツ艦隊所属の駆逐艦ウェイン・マイヤーは,台湾に侵攻する人民解放軍にミサイルを発射するために,中国近くを航行する必要がある。ある学者は,中国の戦闘機を米国よりも長い腕を持つボクサーに例えた。しかし腕の短いボクサーが長腕のボクサーに勝った例は多い。私たちは中国に対して大きな優位性をもって台湾有事に対処できる。それはロサンゼルス級攻撃型潜水艦の存在だ。地球上で最強の潜水艦であり,バージニア級を除いて,最新クラスの潜水艦でもある。正確なデータは機密扱いだが,約10艘の原子力高速攻撃型潜水艦が常時太平洋でパトロールにあたっている。これを追跡することは極めて困難だ。
  • ノ ラ:米国の潜水艦は,中国製よりどれくらい進んでいるのか。
  • パパロ:10年から20年も先を行っている。潜水艦の能力について深く語ることはしない。まさに,“サイレントサービス”である。ペロシ前下院議長の訪台以降,中国の軍事指導者たちは沈黙し,通信回線を開いたままにしておく米軍の努力を無視してきた。中国のスパイ気球が米国の領空を侵犯し,米軍に撃墜されたときでさえも同じ態度である。
  • ノ ラ:米軍と中国軍が偵察気球事件ですら交信ができないのに,南シナ海や台湾有事が発生した時はどう対応するのか。
  • パパロ:彼らが電話に出ることを願っている。それ以外に,オープン・ソースの発信と,彼らの意図を推測するための行動に基づいて,最善の方法を採る。
  • ノ ラ:米軍と中国軍が話し合いをしなければ,状況はさらに危険になるのか。
  • パパロ:国防総省の複数の情報源によると,中国が台湾に侵攻した場合,双方が精密誘導兵器を相手の衛星を標的に,宇宙空間で発射する可能性が高い。米国の都市へのサイバー攻撃と米国本土の西海岸の港の破壊工作が続く可能性がある。
  • ノ ラ:戦略国際問題研究所(CSIS)の机上演習では,米軍が優勢であるが,空母2艘を含む20艘を失うとある。その評価を正しいと思うか。
  • パパロ:もっともらしい推測結果だが,より悲観的な結果を想像することや,楽観的な結果を想像することもできる。発生する可能性のあるあらゆるコストについて明確な予測を持つ必要がある。空母ニミッツは約5,000人の米兵が乗艦している。空母自体は半世紀近く前に建造されたが,太平洋における海軍の現在のニーズと,原子炉に燃料が残っていることを考えると,空母の寿命はさらに延長される予定だ。
  • ノ ラ:米海軍の戦力で,中国の台湾侵略を抑止することが期待できるか。
  • パパロ:それは期待ではなく,私の義務である。同盟国やパートナーと協力して,国家の安全や国家の利益に反して国際秩序を覆そうとする者に代償を払わせることだ。「Si Pacem, Para Bellum(汝平和を欲さば,戦への備えをせよ)」というラテン語の警句,つまり「平和を望むなら,戦争に備えよ」だ。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2916.html)

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