世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2886
世界経済評論IMPACT No.2886

経営戦略におけるマーケティング戦略の考え方

村中 均

(常磐大学 教授)

2023.03.20

 現在,世界経済・政治状況が先行き不透明であり,状況に適応しつつ,状況そのものを創造していく「戦略」に注目が集まっている。経営分野の経営戦略には,企業戦略,事業戦略,機能戦略といった戦略が存在する。同時に戦略構築のための分析フレームワークが多く存在する。

 本稿では,経営戦略の中でのマーケティング戦略の位置付けと,その策定について,数多存在する分析フレームワークを統合する形で概念的な説明を行いたい。

 経営戦略は,企業全体の方向性を示す企業戦略,企業の中の事業(製品)ごとの事業戦略,事業の中の生産や販売等の機能戦略に分類できる。企業戦略では企業の活動領域である企業ドメインの決定,事業戦略では製品レベルでの競争,機能戦略では機能の実施が中心課題となる。経営戦略の構造は,上位に企業戦略があり,中位に事業戦略,そして下位に機能戦略と捉えられ,それらの間には連関性がなくてはならない。

 マーケティング戦略は,製品レベルでの競争を前提として,生産や販売等の機能をもとに,製品,価格,流通,販売促進の戦略を展開していくことであり,事業戦略と同義となる。このように捉えると,企業戦略の策定を受けて,マーケティング戦略は策定するものといえる。企業戦略では,企業理念・ビジョンを背景に,市場分析を行い,方向性や資源配分を決定し,企業ドメインが決定されることになる。企業戦略を策定する際,市場分析で用いられる代表的な分析フレームワークは,SWOT分析,アンソフの成長ベクトル分析,PPM(Product Portfolio Management)分析が挙げられる。

 SWOT分析は,外部環境と内部環境を分析し方向性を決める。まず,自社を取り巻く状況すなわち外部環境である市場における機会(Opportunity)と脅威(Threat)を整理する。外部環境は,マクロ環境とミクロ環境の2つに分類できる。マクロ環境では,自然環境,政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology)状況(これらをまとめPEST分析と呼ぶ)を分析する。ミクロ環境では,顧客や競合企業を分析する。さらに新規参入企業や供給業者そして代替品を加えた,ポーターの5フォース分析を行えば,ミクロ環境の分析は洗練される。次に,内部環境すなわち競合企業との関係を踏まえて自社を分析し,自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)を整理する。自社の強みとなる独自能力・資源であるコア・コンピタンスを見いだす際には,価値(Value)・希少性(Rarity)・模倣困難性(Inimitability)・組織(Organization)の視点からなるバーニーのVRIO分析が用いられることがある。

 成長ベクトル分析は,企業の対象とする市場,具体的には既存市場か新市場か(すなわち外部環境),また提供する製品,具体的には既存製品か新製品か(すなわち内部環境)という2つの軸から,企業の方向性となる成長ベクトルについて分析する。具体的には,既存製品を既存市場に提供する市場浸透戦略,既存製品を新市場に提供する市場拡大戦略,新製品を既存市場に提供する新製品開発戦略,新製品を新市場に提供する多角化戦略の4つがある。

 PPM分析では,具体的には,製品の魅力度(業界・市場成長率のことで,外部環境)と競争上の優位性(相対的マーケットシェアのことで,内部環境)を製品ごとに評価し,問題児,花形,金のなる木,負け犬に分類し,資源配分の最適化を考える。

 これらの市場分析で用いられる分析フレームワークは,観点は異なるが,外部環境と内部環境を分析している。市場分析によって,外部環境から,どういうニーズがあるか,そのニーズを持った顧客を決め(誰に),その顧客に対して,内部環境である自社の独自能力・資源を適応させ,ニーズに合った製品(何を)を作り,提供するか(どのように)という企業ドメインが確定される。

 企業ドメインをもとに,マーケティング戦略では,製品ごとにより詳細に,「誰に」については,市場を特性によって細分化するセグメンテーションを行い,標的を決めるターゲティングと製品の位置付けを明確化するポジショニングを設定し,「何を」については製品と価格を決定し,「どのように」については流通と販売促進を決定し,それらを実行していくことになる。経営戦略において,企業戦略から事業戦略の流れが広義のマーケティング戦略といえよう。

 戦略間のつながりと分析フレームワークがどう利用されるかについて把握しやすいマーケティング戦略のテキストは意外と少ない。筆者は,上記の概念的な捉え方をもとに,初学者(学生やビジネスパーソン)向けに順次性と関連性を重視した入門テキスト『すっきりわかるマーケティング戦略』(文眞堂,2023年)を刊行した。興味のある方は是非手に取っていただきたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2886.html)

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