世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
サーキュラービジネスの課題と手段
(常磐大学 教授)
2025.12.08
現在,我々は気温上昇や豪雨災害といった異常気象を実感しており,環境(自然)に配慮した企業や商品(製品やサービス)に注目するようになってきている。ビジネスの基本は,顧客のニーズに対応した価値ある商品を生み出し提供する流れ,すなわちバリューチェーン(価値連鎖)の構築にある。本稿では,地球の限界の範囲内での顧客のニーズへの対応を環境とビジネスの両立の前提とし,バリューチェーンの視点から,環境に配慮するサーキュラー(循環)ビジネスの基本的な課題とそれに対応する手段を考えてみたい。
バリューチェーンでは,インプットが投入され,アウトプットが産出される。インプットは商品の原材料が基本であるが,それには水,炭素,窒素,鉱物といった環境インプットが付随し,またアウトプットは商品であるが,それには廃水,二酸化炭素,窒素化合物,鉱物・プラスチックといった環境アウトプットが付随している(エグゼクティブ・サステナビリティ・フォーラム「サーキュラーエコノミーおよびカーボンニュートラルに関する共同声明」2024年)。
環境インプットが多いと資源枯渇につながり,環境アウトプットが多いと大気・土壌・水質の汚染による気候変動や生物多様性破壊さらにいえば環境破壊につながる。このように考えると非常に単純であるが,環境インプットと環境アウトプットを減らすことが環境にとってより良いといえる。したがって,環境インプットと環境アウトプットの低減がサーキュラービジネス,すなわちビジネスのサーキュラー化の基本定式となる。この定式を踏まえると,バリューチェーン上では新規の環境インプットと環境アウトプットの低減のみならず,過去に採取されたり生み出された既存の環境インプットと環境アウトプットの再取り込みを向上させ(つまり,それらを低減させ),循環的に価値を生み出し顧客に提供していく必要があるといえる(磯貝友紀『必然としてのサーキュラービジネス』日経BP,2024年)。
上記のことからビジネスのサーキュラー化には,①新規の環境インプットの低減,②新規の環境アウトプットの低減,③既存の環境インプットと環境アウトプットの再取り込みの向上の3つが基本的な課題となる。それゆえ,自社(さらにいえば関係する企業を含む)のバリューチェーンに係る環境インプットさらに環境アウトプットを特定化し,それらを低減し,循環的に価値を生み出し,顧客に提供していく方法を構築していかなければならない。
企業がとりうる上記の基本的な課題に対する顧客に向けた具体的な手段は,売るのではなく使用時に貸し出す(a)リース(特に①と②に関連する),長く使用できるようにする(b)ライフサイクルの延長(特に①と②に関連する),使用後に回収し再利用する(c)リサイクル(特に③に関連する)の3つであり,これらは単独あるいは組み合わせて利用されている(Atasu, A., Dumas, C. and Van Wassenhove, L. N., “The Circular Business Model: Pick a Strategy that Fits Your Resources and Capabilities,” Harvard Business Review, 2021, 99(4), pp.72-81)。
この3つの手段のどれが適切かについては,回収コストが低いか高いか,再利用コストが低いか高いかによって変わってくる。回収コストが低ければ,リサイクルが主となってくるであろうし,回収コストが高かったり再利用コストが高ければリースとライフサイクルの延長が主となってくるであろう。大きな捉え方となるが,例えば,衣料業界であれば,回収コスト,さらに再利用コストが低いためリサイクルが主要手段となり(無印良品はReMUJIとして服の染め直し販売等を行っており,ユニクロはRE.UNIQLOとして再生素材の活用やダウンのリサイクル等を行っている),機械業界であれば,回収コストが高かったり再利用コストが高いため,リースとライフサイクルの延長が主要手段となる(自動車メーカーは月々定額料金支払いのサブスクリプション型のカーリースを積極的に展開しているし,家電メーカーのMieleは20年の耐久年数を想定し製造しているといわれる)。もちろん,個別企業においては,顧客のニーズに対応し,手段を洗練させたり手段を組み合わせて,他社との競争を行っていくことになる。
- 筆 者 :村中 均
- 分 野 :国際経済
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
- 分 野 :経営学
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