世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2839
世界経済評論IMPACT No.2839

CES2023・BMWの“変面電気自動車”:台湾・元太科技の電子ペーパー技術の役割

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2023.02.06

BMWがCES2023で注目を集める

 テクノロジーの見本市CES2023(Consumer Electronics Show)が,1月5日~8日にラスベガスで開催された。注目されたのはBMWのコンセプカーである新型「i Vision DEE」である。現在の主流は,電気自動車(EV)で,クリーンエネルギーを売りにしている。EVは,コンピューターに4つの車輪を付けたものと言われる。これまで,ノートパソコン,タブレット端末,スマートフォンがハイテクの進歩を支えていたが,EVや自動運転技術は今後10年間のハイテクを支えるハイライトである。

 i Vision DEEが注目されたのは,白一色である外観が,僅か数秒で変色する。ボディの色とパターンは無限に変化させることができ,まるでカメレオンのようだ。筆者は勝手に“カメレオン車”や“変面車”と呼んだ。“変面(変臉)”とは,中国四川省の伝統芸能劇「川劇(せんげき)」内の一幕であり,役者が顔に手を当て,または大型の扇子で顔を隠す瞬間に臉譜が変わるというものである。このマジックのように一瞬にして車のボディカラーが変わることで,注目のマトになった。またオーナーがドアに近づくと,AIによるアシストで車がドアガラス越にオーナーを認識し,ニックネームで呼びかけると開錠する。運転席の前に計器パネルはなく,フロントガラスに情報を映し出す特徴もこの車の売りの一つである。BMWは公式ホームページで「2025年にBMW車は大きく変化する」と述べ,このi Vision DEEも次の一歩に飛躍するマイルストーンである(BMW at CES 2023 Full Presentation)。

 「i Vision Dee」の「Dee」という名称は,デジタル・エモーショナル・エクスペリエンスの略で,エクステリアは最大32色に変化するフィルムで覆われている。このマジックように一瞬で色が変わるネタは,台湾の元太科技(E Ink テクノロジー)のフルカラー(32色)バージョン「ePaper」フィルムをボディに貼り付けたことだ。

元太科技の電子ペーパー技術

 日本ではあまり知られていない元太科技の概要を紹介したい。元太科技はアマゾンの電子書籍リーダーに電子ペーパーを提供するメーカである。周知のように,電子書籍リーダーは,指でリーダーの画面にタッチし,電子書籍のページをめくり,閲読する仕組みである。初期の電子書籍リーダーはモノクロで,のちにフルカラーにバージョンアップするようになった。

 この数年間で電子ペーパーの技術とビジネスは急速に進歩・拡大し,Trend Forceの予測によると,2022年の市場規模は約46.5億ドルで,対前年比48.1%増と大きく成長し,2026年に206億ドルに達すると見られている。また,元太科技の売上高は2021年の約194億台湾元から2022年11月までの約300億台湾元に大きく増えている。将来,BMWが元太科技の「ePaper」フィルムを本格的に採用する場合,このビジネスは飛躍的に拡大すると予測される。

 最後に,元太科技の歴史を紹介したい。元太科技は,台湾製紙業のトップである永豊餘造紙(現在の永豊餘持株会社)によって1992年に設立された。この年にTFT-LCD製造工場(小さい寸法の2.5世代生産ライン)を設け,電子ペーパー(ePaper based on Electrophoretic technology)とTFT-LCDを製造した。

 2005年に元太科技はフィリップスの電子ペーパー事業部を買収し,世界最大の電子ペーパー製造企業としての一歩を踏み出した。2009年に,元太科技はE Ink社とその特許技術を買収し,同時に自社の英文名を「Prime View International」から「E Ink Holdings Incorporated」に変更した。

 また,アマゾンの電子書籍リーダー「Amazon Kindle」とソニーの電子書籍リーダーのサプライチェーンの一翼を担い,ビジネスを大きく発展させた。

 2012年12月には,元太科技は液晶パネル大手友達光電(AUO)傘下の電子ペーパーの達意科技(SiPix Technology)を買収し,世界における市場シェアは約9割を占める。名実ともに世界最大の電子ペーパー製造企業の地位を不動のものにした。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2839.html)

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