世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2808
世界経済評論IMPACT No.2808

習近平氏のマルクス主義

朽木昭文

(ITI 客員研究員・放送大学 客員教授)

2023.01.09

 異例の3期目に入った習近平氏は,2022年10月16日に中国共産党第20回党大会における第19期中央委員会を代表して報告した(注1)。その基本原理であるマルクス主義が,弁証法を使用していることを以下で示す。

1.マルクス主義の「革命性」

 「この10年,われわれはマルクス・レーニン主義,毛沢東思想,鄧小平理論,三つの代表重要思想および科学的発展観を堅持してきた」が枕言葉としてある。続けて,「9,600万人以上の党員を擁するこのマルクス主義政党はさらに団結・統一した。マルクス主義の中国化・時代化の新たな飛躍を実現し規範を示した。わが党は世界最大のマルクス主義の政権党である。マルクス主義の学習型政党を建設する。マルクス主義の中国化・時代化の新境地を切り開く」とマルクス主義の学習型政党であることが展開される。その根底に「革命」があり,「百年にわたる奮闘の道のりを歩んできた中国共産党は,「革命性」を鍛え上げる中でいっそう強くなった」と述べる。

2.イデオロギーとしてのマルクス主義の弁証法

 「われわれはイデオロギー分野におけるマルクス主義の指導的地位という根本的制度を確立・堅持し,――イデオロギー分野の情勢が全局的・根本的に転換した。イデオロギー分野におけるマルクス主義の指導的地位という根本的制度を堅持する」とイデオロギーとしての役割を重視する。そして,「中国共産党員は,マルクス主義の基本原理を中国の実情と,中華の優れた伝統文化とを結び付け,弁証法的唯物論と史的唯物論の運用を堅持する」として,弁証法を強調している。

 ここで,弁証法とは,対立・矛盾する二つの事柄を統一し,高い次元の結論へ導く思考方法である。そして,弁証法的唯物論は,自然・社会・歴史の発展過程を,物質的なものの弁証法的発展としてとらえる。「矛盾」が自然の事物と現象にかならず内在し,「古いものと新しいもの,死滅するものと生成するもの,その闘争」が発展過程の内容を構成する(注2)。これが中国のマルクス主義による政策運営に適用されている。

 具体的には,「全局と局部,短期と長期,マクロとミクロ,主要矛盾と従属矛盾,特殊と一般の関係」をとらえ,「戦略的思考,歴史的思考,弁証法的思考,系統的思考,革新的思考,法治的思考,最低ライン思考の能力を不断に高めて,党と国家の諸般の事業の先見的思考,全局的構想,全体的推進に向け科学的な考え方を示していかなければならない。」と述べている。

 その際に,マルクス主義を永久不変のドグマにしてはいけないと述べている。中国は,弁証法として,マルクス主義と中華伝統文化の融合を目指す。新時代の改革開放と社会主義現代化建設の具体的な課題の解決を見据え,マルクス主義思想を中華の優れた伝統文化と通じ合わせる。

3.公有経済と市場経済の融合

 経済は,一方で公有制経済を発展させ,他方で資源配分において市場に決定的な役割を十分に果たさせる。後者の市場経済に関しては,中国の特色ある現代企業制度を充実させ,企業家精神を発揚し,ハイスタンダードな市場体系を整備するこの点は,習近平体制でこれまでと変わらない。製造業のハイエンド化・スマート化・グリーン化を推し進める。戦略的新興産業の融合発展,「クラスター」発展を推し進め,次世代情報技術,人工知能(AI),バイオテクノロジー,新エネルギー,新素材,ハイエンド設備,グリーン・環境保護など一連の新たな成長エンジンを構築する。中国のクラスター政策に変更はない。

4.自由貿易試験区と開放型経済

 市場経済に関して,自由貿易試験区向上戦略を実施し,グローバル志向のハイスタンダードな自由貿易試験区ネットワークを拡大する。この時期の主な目標・任務は,第2番目として「改革開放」においても新たな一歩を踏み出して推進する。

 ただし,社会主義の面では,2022年から5年は社会主義現代化国家の全面的建設をスタートさせる。弁証法として,「社会主義市場経済体制」をより充実させ,よりハイレベルの開放型経済の新体制を基本的に構築する。

5.「人」重視の「人民市場」と「共同富裕」

 「人民性はマルクス主義の本質的属性」であると習近平氏は述べている。人民至上を堅持する。科学教育興国戦略を実施し,人材による現代化建設へのサポートを強化する。また,マルクス主義理論研究・建設プロジェクトを踏み込んで実施するとして,中国式現代化は全人民の共同富裕を目指す現代化である。分配制度は共同富裕促進の基礎的制度であると述べる。

 弁証法として,市場経済と社会主義が矛盾するが,これを統一し,より高い次元の国家を目指す。習近平氏の学習型政党の運営が注目点である。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2808.html)

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