世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2716
世界経済評論IMPACT No.2716

米中間選挙,3つの注目点

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授)

2022.10.17

 11月8日の投開票日まであと3週間。夏の始まりの頃は上下両院で共和党が圧勝とみられていたが,いまや程度の差はあるものの,上院は民主党,下院は共和党の勝利という見方が多い。しかし,両院とも接戦候補が多く,今回ほど予想される結果が不確実な選挙はないともいわれる。勝敗予想とは別の観点から,今回の中間選挙の注目点を3点挙げてみよう(注*)。

1.過去に例のない前大統領の高露出度

 2年前の大統領選挙で再選に失敗した大統領が,再度勝利を目指し,中間選挙でこれほど露出度を高めている例はかつてない。現職で再選に失敗した大統領が4年後,大統領に返り咲いたのはグローバー・クリーブランド第22代大統領(民主党)しかいない。1885年3月,大統領に就任したクリーブランド(就任時47歳351日)は4年後の再選選挙に敗れ,その4年後の1893年,第23代のベンジャミン・ハリソン(共和党)から政権を奪還した。だが,1892年の大統領選挙戦は,クリーブランドは痛風に苦しみ,ハリソンは妻の重病で(1892年10月死去),米国史上最も静かなものだったという。

 トランプ第45代大統領は2020年11月,選挙結果が出ると直ちに,大統領選挙で勝ったのは自分だ,勝利は不正に自分から奪われたという「真っ赤な嘘」(big lie)を叫び続けた。今年の選挙では上下両院,州知事選で190人余の候補者を推挙(endorse)し,全米を駆け巡って選挙運動を展開している。これは,トランプ自らの再選を有利に進めるため以外の何ものでもない。

 だが,本選挙に進んだトランプ推挙の候補がみな当選確実というわけではない。トランプに事あるごとに批判されるマコネル上院共和党院内総務は,8月,上院で共和党が過半数の議席を確保できそうもないのは,候補者の質に問題があるからだと述べた。トランプが推挙した連邦上院議員候補では,ジョージア州のアメフトの元スター選手ハーシェル・ウォーカー,ペンシルバニア州のテレビ・ドクター,メーメット・オズ,オハイオ州の『ヒルビリー・エレジー』を書いたベンチャーキャピタリストJ.D.バンスなどがその例かも知れない。

 一方,下院では共和党が多数党となれば,トランプ派のケビン・マッカーシー(カリフォルニア州23区)が下院議長に就任する。そうなると,下院からバイデン弾劾が発議される可能性もあり,上院も共和党が多数党となれば米国の政治は大きく混乱する。

2.共和党候補者の大半が2020年選挙結果の否定論者

 否定論者とは,2020年の大統領選挙結果を否定する者(deniers),つまりバイデン大統領の当選を認めず,上述のBig Lie を信じる者をいう。例えば,フロリダ州1区から初めて立候補し,本選に進出した共和党のアンナ・ポーリア・ルナは,ドミニオン社製の投票機の不調を非難し,バイデン当選が確定した後もアリゾナ州の投票結果撤回を訴え続けた。れっきとした否定論者である。

 10月6日付のワシントンポストは,全米48州で連邦・州議会,州知事,州務長官などに立候補した569人の共和党候補者のうち,299人(53%)が選挙結果否定論者で,このうち174人(31%)が当選確実だとする同紙独自の調査結果を発表した。

 選挙結果否定論者が落選すれば,選挙結果に対する抗議が高まり,選挙後,否定論者による訴訟が多発するといわれる。これがエスカレートすれば,2024年の大統領選挙にも影響する。これはもう単にトランプ現象といって済まされる問題ではない。米国の選挙制度全体にかかわる深刻な問題,さらには米国の民主主義が危機にさらされる事態ともなる。ミネソタ大学のラリー・ヤコブ政治学教授は,否定論者が共和党支持者の中に増えている状況をこう憂慮している。

 こうした選挙結果否定論者の増大は世論調査の専門サイト「ファイブサーティーエイト」も指摘している。10月7日付のニューヨークタイムズに掲載された同サイトの記事によると,共和党から公職に立候補している552人のうち,200人が2020年大統領選挙の結果を完全に否定し,62人が疑問視し,104人が回答を拒否した。これらの合計人数は全体の66.3%。これに対して選挙結果を完全に受け入れているのは77人(13.9%),留保付きでバイデン勝利とするのは91人(16.5%)の合計168人。つまり,2020年選挙結果を受け入れている共和党候補者は30.4%に過ぎない。これは驚くべき現実だ。

3.州レベルの選挙結果もかつてなく重要

 11月の選挙では連邦議会議員選挙と同時に,州知事,州務長官,州司法長官,州議会など州レベルの選挙も行われる。全米50州の党派別知事数は,現在,共和党28州,民主党22州。このうち共和党の20州,民主党の16州,合計36州の知事が改選される。州務長官など州政府の幹部の選挙も,ほとんどの州で行われる。

 州知事および州政府幹部の選挙における重要性は,2020年の大統領選挙で再認識された。この選挙でトランプ陣営は選挙結果を改変するため州政府に圧力をかけ,投票数や大統領選挙人の変更を迫った(ジョージア州ではトランプ陣営による選挙介入の訴訟が今も続いている)。州務長官など選挙に関与するポストにトランプ支持派や選挙結果否定論者が就任すれば,その影響は大きい。

 例えば,今年連邦上院議員に立候補しているミズーリ州司法長官(前任は州財務長官)のエリック・シュミットは,他の17州の共和党司法長官および126人の連邦下院議員とともに,トランプが僅差で敗れたペンシルバニア州の一般投票結果を覆す訴訟に参加した。

[注]
  • *各情報の出所は割愛するが,本稿は主にThe New York Times,The Washington Postの記事および記事中の引用出典に依拠した。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2716.html)

関連記事

滝井光夫

国際経済

アングロアメリカ

最新のコラム

おすすめの本〈 広告 〉