世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2697
世界経済評論IMPACT No.2697

孤立ニッポン,今こそ「FOR JAPAN」論議を!

市川 周

(白馬会議運営委員会事務局 代表)

2022.10.03

9月,3つの孤立感

 9月22日,日銀による起死回生の円買い介入につき合ってくれた欧米通貨当局はどこもなく寂しい単独介入に終わった。日本の金利だけがマイナス金利で水没したまま,自業自得,お前の勝手でしょと言わんばかりに冷淡だった。こんなことを繰り返せば早晩,世界最高水準を誇った外貨準備高もあっという間に底をつくことになる。誰も助けてくれないなら日本人は超円安下で生き抜いていく手だてを真剣に考えなければなるまい。

 その2日前の9月20日,岸田首相はニューヨーク国連総会の一般討論演説に臨んだ。彼自身懸念していた通り,会場はガラガラ,居眠りする聴衆すら目に入ってきた。

 「ロシアのウクライナ侵略は国連憲章の理念,原則を踏みにじる行為だ」と名指しで批判し,国連安保理改革の早期実現を訴えたが会場にどよめきは起こらない。ロシアのウクライナ侵略は明確な国連憲章蹂躙であり,その国連憲章に立脚,依存してきた日本の戦後平和外交は破綻の危機にある。それにも拘わらず,アメリカの核の傘に隠れながら建前論に終始する日本の安全保障感覚。誰も反対しないが,やはり自業自得,あんたの勝手でしょという国連会場の冷めた視線を岸田首相は感じたに違いない。

 そして9月19日ロンドン,エリザベス女王国葬。ノーマスクで参列する天皇,皇后両陛下の画像が日本国内のテレビに飛び込んで来た。それを見つめる日本人はなんとも複雑な思いであった。最近の英国報道がロンドンの人にとってのマスクは「銀行強盗か,エキセントリックなスターか,日本人観光客」と伝えていたが,天皇ご夫妻は「マスク=日本人」のイメージに耐えられなかったのであろう。

ダボス会議vs.白馬会議

 我々日本人が運命的かつ文明的に極めて異質であることを明確に予言したのが『文明の衝突』を世に遺したサミュエル・ハンチントンだ。彼は世界の文明を8大文明に分類し,中華・ヒンズー・イスラム・東方正教会・西欧・ラテンアメリカ・アフリカの各文明に加えて,日本文明を付け足しで入れてくれている。只,日本文明だけは「一民族,一国家」で形成されている極めて特異なものであり,このまま日本人がいなくなったら,絶滅する文明であると予言した。

 さて,2019年の第12回以後,現地開催を猶予していた白馬会議をこの11月19日(土)~20日(日),長野県白馬村シェラリゾートで再開する。この白馬会議のモデルは「西にダボス,東の白馬」を標榜するようにスイス・ダボス会議だ。本場アルプスと信州北アルプス,自然環境の雄大さでは負けないが,規模は段違いだ。あっちは2020年実績で118か国2800人が参加。但し欧米勢が1800人を超える。日本人参加者は100人に満たない。正直,日本人はダボスではお呼びでないというか,そもそも行きたがらないというのが現実だ。今年5月に再開されたダボス会議の参加者には,日本人の有力政治家はゼロ,経団連クラスの実力財界人も見当たらない。言葉は悪いが,「ダボスおたく」的な学者や経営者が常連として毎年たむろっている感じだ。

 だったらダボス会議のような世界的視野にたった「日本人による日本人のため日本人の会議」をやろうではないか,というのが白馬会議創設の原点にある。孤立ニッポンの開き直りである。ダボス会議では欧米を中心に産官学のトップリーダーが集まって来て,まさに世界戦略を巡る知的駆け引きを展開するが,白馬会議は何処まで行っても日本人参加者中心の「FOR JAPAN」論議である。白馬に様々な舞台で活動する「志ある知的個人」が毎年集まって来て,「世界における日本の針路」について意見をたたかわせる作戦会議だと割り切っている。

2022白馬会議―3つの視点

 今年の白馬では何を議論するか? 3つの視点から切り込みたい。

 第1セッション『ロシア・ウクライナ侵略と日本の安全保障―戦後平和外交に何が問われているか?』では,「日本国民は,恒久の平和を念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。」この日本国憲法前文に立脚する戦後平和外交はロシアのウクライナ軍事侵略の前に本当に可能なのか? 鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授を囲んで議論する。

 第2セッション『コロナ・ウクライナと日本経済沈没―成長軌道に戻す「TODOリスト」とは?』では,1995年世界のGDPのうち日本は17.6%だったが,現在は5.6%。89年の時価総額世界上位50社のうち日本企業は32社だったが,現在は1社のみ。

 目を覆いたくなるような日本経済沈没。この下り坂がロシア・ウクライナで加速する。ではどうするか? 現実を直視してやるべきこと(「TODOリスト」)を明示し,決して逃げずに1つ1つ解決して行くしかないだろう。小黒一正・法政大学経済学部教授のクールで熱い問題提起を受けて徹底討論する。

 第3セッション『危機のニッポン政治― 今,現場で何が起きているのか?』では,オリパラ汚職の内実は? 安倍国葬の真の動機は? 統一教会と自民党のほんとの一体度は? 自民党政治は何故続くのか? 政権交代の夢と期待が国民から何故消えたのか?・・・我々には投票結果と世論調査の数字しか見えてこないニッポン政治の現場で今,何が起きているのか? 衆議院議員,県知事,そして参議院議員として長年日本政治と格闘し続けている上田清司氏に本音を話してもらおう。

 ユーチューブでも忖度・広告費にまみれた商業マスコミでもない,「志ある知的個人」が自分の時間と身銭を切って集まって来る白馬会議に是非,貴方もご参加を!

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2697.html)

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