世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2582
世界経済評論IMPACT No.2582

“アメリカは台湾を保護することができるのか”:『ニューヨーク・タイムズ』紙の寄稿は何を語るのか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.06.27

 「アメリカは台湾を本当に保護することができるのか?(Biden Says We’ve Got Taiwan’s Back. But Do We?」は,スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所(FSI)研究員のオリアナ・マストロ(Oriana Skylar Mastro)が書いた寄稿で,『ニューヨーク・タイムズ』紙(2022年5月27日付)に掲載された。本稿はこの寄稿の概要を紹介する。

 バイデン大統領のアジア訪問は順調であり,日米首脳会談の後の記者会見で,「台湾有事」が発生した場合,アメリカは軍事関与をするのかと聞かれた。「はい。これは私たちの約束である(“That’s the commitment we made”」と明快に答えた。これは過去数十年間で,アメリカが台湾防衛に対する保障を最も鮮明に表明したものであり,長期における“戦略的曖昧政策”からの転換であった。しかしながら,アメリカは中国の軍事侵攻を阻止できるか否かは定かでない。一言で言えば,アメリカには不利な条件が多い。少なくとも,米軍は大きな消耗戦を強いられ,中国の侵攻を阻む確証が持てない。しかし,バイデン大統領の発言は中国軍の侵攻を阻止する目的のものであろうし,それが有効であると信じたい。

 数十年をかけた軍部の近代化で,中国は世界最大級の海軍船舶数を擁し,台湾海峡での衝突時に米軍が投入できる軍艦数を凌駕している。また,中国のミサイルは,アメリカの航空母艦などを撃破できる能力を持つようになった。

 アメリカは世界で最も精鋭な戦闘機を持つが,台湾海峡の戦闘で航空燃料を充填できる施設は,飛行半径で日本の2つの空軍基地しかない。一方,中国は台湾の800キロ半径内で39の軍基地を持っている(筆者注:著者はアメリカが台湾の空軍基地の利用を見落としていると考えられる)。

 中国の指導者が台湾侵攻を決定し,アメリカがこれに軍事的関与をする場合,中国軍は地域内の米軍基地を先制攻撃することであろう。中国のミサイルは日本域内の米軍基地を攻撃し,アメリカの航空母艦は中国の“空母キラー”(筆者注:「東風(DF)21D」,射程1500キロ超を指す。なお,「東風(DF)26B」,射程約4000キロは“グアムキラー”とも呼ばれる)の脅威に直面する。

 米軍は遠距離からの兵力投入が必要になり,同時にそれは中国のサイバー攻撃に晒されることになる。アメリカ海軍傘下の軍事海上輸送司令部(MSC)はアメリカの物資の運搬を担当しているが,サイバー攻撃に晒されやすいとも言われている。また,中国は人工衛星を標的とする攻撃に加え,通信,GPS(全地球測位システム)による運航管理,情報蒐集,指揮・制御に対し妨害を加えると考えられる。

 アメリカに比べ有利な戦闘環境の下,中国は米軍の軍事介入を避け,台湾攻略に集中することができる。米軍は地域の同盟国やパートナー,例えば日本にある戦闘機用の滑走路や港湾,補給ステーションの利用が必要不可欠になる。2018年,米国議会は台湾海峡における有事の際,“アメリカは軍事的に失敗する”との警告を発した。その理由は,中国の軍備増強とアメリカが直面する補給の問題である。複数の元国防省高官からも類似する指摘がある。バイデン大統領の台湾有事に対する発言は,大統領としての台湾に対するスタンスの表れである。ロシアがウクライナ戦争で敗れた場合,バイデン大統領は,台湾有事においてアメリカの軍事介入の意志を示しておけば,中国にとって「高い代償を支払うことになる台湾侵攻」を思いとどまらせることができると考えている。

 ウクライナと台湾を比較するには問題がある。北京政府は1949年以降,(筆者注:一日たりとも台湾を統治したことがないにも関わらず),完全に独立して自ら統治している台湾を自国の領土として見ていることである。また,その思いは,プーチン大統領がウクライナに対して持つ執念よりも強い。中国にとって台湾の統一は最も重視する目標の一つであり,アメリカの干渉介入は中国の“一つの中国の原則”に対する挑戦と受け止めている。

 中国の経済規模と同様に,人民解放軍はロシア軍よりも規模・軍備面でより強靭である。また,中国は多くの国にとって最大の貿易パートナーであり,経済制裁は対ロシアのそれよりも困難である。

 ホワイトハウスの担当者はバイデン大統領の発言について,「アメリカの政策は変更していない」という。仮にその通りである場合,バイデン大統領は言葉によるトラブルを引き起こす行為を止め,粛々と台湾に武器を提供し,その地位を強化すべきである。この意味は台湾により多くの武器を提供することによって,アメリカがこの地域でより強い軍事的影響力を持つことである。

 中国の台湾侵攻に対し,アメリカは抑止力を強化し,仮に有事の際には台湾が対抗できる軍備面での支援を行うことである。これは賢明な外交を行うことの必要性を意味する。また,バイデン大統領は中国の台湾に関する恫喝外交に強く反対する必要がある。そしてアメリカは,平和裏に台湾問題を解決する姿勢を堅持することである。さらにバイデン大統領は,より多くの軍事施設を米軍が使用できるようにこの地域の同盟国やパートナーを説得する必要もある。そうすることで,アメリカの地域に対する立ち位置を強化させることができ,また,台湾侵攻の抑止力の増強にも寄与することができる(筆者注:沖縄の米軍基地の増強に,沖縄住民の負担増の可能性があり,台湾に米軍基地の開設も一つの選択肢であろう)。

 この点,バイデン大統領の計算はどうであろうか。数十年来の“戦略的曖昧政策”からの離脱は,平和維持という重点を見落とすことになりはしないか。習近平国家主席にとって主な課題は,アメリカが参戦するか否かでなく,台湾侵攻の際,アメリカを撃破できるかどうかである。

 多くの人々は,バイデン大統領が中国の威圧の前に胸を張って,民主主義台湾の支持を明言したことに喝采した。しかし,対峙するのは20年前の訓練に欠ける陸軍と時代遅れの海軍と空軍しかなかった中国ではない。アメリカは台湾有事により危険に直面する可能性があり,目的どおり,台湾を助けることができないのではないかと憂慮している。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2582.html)

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