世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2453
世界経済評論IMPACT No.2453

ロシアのウクライナ侵略に対する憤懣と考察

重原久美春

(国際経済政策研究協会 会長 )

2022.03.07

 筆者が経済協力開発機構(OECD)副事務総長であった時代,加盟国の経済問題のほか,非加盟国との協力関係も取り仕切ることとなった。エリツィン大統領時代の1997年10月に初めてのOECD首脳による公式訪問の形で,ジョンストン事務総長と共に初めてモスクワに出かけ,クレムリンでチェルノムイジン首相と会談したほか,チュバイス第一副首相・蔵相,プリマコフ外相(翌98年に首相に就任)をはじめとする主要閣僚と個別会談を行った。更にジョンストン事務総長のパリ帰任後は,筆者がOECDのトップとしてモスクワに残り,更に多くの閣僚や中央銀行総裁と個別会談を続け,OECDの対ロシア協力プログラムの基礎を作った。

 OECDの対ロシア協力プログラムの一環として“The Rule of Law and the Development of a Market Economy in the Russian Federation”をメイン・テーマにして,ロシアの閣僚以下主要人物を招いたシンポジウムをOECDパリ本部で開催し,筆者が基調講演を行った。その全文はOECDプレス・リリースの形でメディアに配布され,その後,法の支配と経済金融秩序に関する欧米の学術書などでも講演内容が引用されたことがあった。

 このように筆者自身,ロシアにおける法の支配の確立の重要性を訴えてきた経緯があるだけに,プーチン大統領の下でウクライナ侵略というロシアの明確な国際法違反が生じたことに強い怒りを抱いている。しかも,今般,OECDの対ロシア協力プログラムが廃止され,OECDモスクワ事務所を閉鎖することがOECD理事会で決定されるに至ったことは甚だ残念である。

 米紙ワシントン・ポストなど欧米メディアは,2月27日に開かれた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のオンライン会合で,ロシア代表として出席したロシア国立水文研究所のオレグ・アニシモフ氏が,ロシア軍のウクライナ攻撃について参加者たちに謝罪したと伝えた。アニシモフ氏は「何が起きているのかを知っていれば,攻撃の正当性を見つけることはできない。争いを防げなかったすべてのロシア人に代わり,謝罪の意を表明したい」と述べたという。アニシモフ氏のこうした発言やロシア国内における戦争反対の声をあげる人々の動きを見ると,今般のウクライナ侵略は「ロシアの論理」ではなく,プーチン個人の論理で読み解く必要があることがわかる。

 ところで,大臣経験者である筆者の友人は「組織の論理は組織により決まっており,固定しているかのように思われているが,そうではなく,誰が,何を目的に,どのように,どこまでやるか,によって決まる部分が大きいと考える」と述べている。

 現在の国連事務総長は欧州人(ポルトガル人)でありながら,東欧で進行中の悲劇に何ら目に見える形での有効な行動をしているようには見えない。水面下での動きはあるのかも知れないが,それだけでは,パニックを起こしているウクライナ市民を鼓舞することは出来ない。

 こうした状況下,筆者は次のとおり3項目からなる提案をしたい。

  • (1)国連事務総長を務めるグテーレスよりも,NATOの有力メンバーであり,核保有国でもあり,かつ現在EU議長国でもあるフランスの大統領のマクロンが率先してEU義勇軍を組織するため直ちに行動すべきである。
  • (2)この義勇軍はポーランド国境を越え,現在なおウクライナ軍の支配下にある地域に入り,その地域に存在する原子力発電所の安全を確保するなどの活動に限定してウクライナ軍と共同で軍事力を行使することを大義として駐屯すべきである。
  • (3)NATOの枠組みは利用しないので,アメリカ軍はウクライナに入るべきではなく,ポーランドなどウクライナの周辺国内にとどまるべきである。

ICCへの期待

 国際刑事裁判所(ICC)は3月2日,ウクライナにおける戦争犯罪や人道に対する罪に関する捜査を開始したと発表した。カーン主任検察官は声明の中で次の通り述べている。

 My Office had already found a reasonable basis to believe crimes within the jurisdiction of the Court had been committed, and had identified potential cases that would be admissible.

 この声明文には,ICCに捜査を付託した英独仏伊やカナダなど39カ国のICC設立条約締約国の名前が列挙されているが,平成19年に正式にICCの加盟国となった日本はこの中に入っていないのだ。これは非常に残念なことと思う。

 一方,G7構成国のうち米国はICCに参加していない。これに関連し,日本の外務省報道官は令和3年4月3日の談話の中で以下のように述べた。

  • 1.日本政府は,国際社会における重大な犯罪の不処罰と闘い,法の支配を強化する観点から,ICCローマ規程の締約国として,ICCを一貫して重視する。
  • 2.日本政府は,ICCが国際社会全体を代表する裁判所になるべきであり,その活動に対して国際社会から幅広い支持を得ることが重要であると考える。日本政府は,ICCが,改革に取り組みつつ,米国を含む非締約国との建設的な対話を一層推進することを希望する。

 ウクライナにおける戦争犯罪や人道に対する罪に関する捜査をICCが開始した,この期をとらえて,岸田首相,林外務大臣は米国大統領と国務長官に対しICCへの参加を積極的に促すべきあると筆者は考える。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2453.html)

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