世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4230
世界経済評論IMPACT No.4230

ベトナム第3のハブに成長するダナン経済圏

藤村 学

(青山学院大学経済学部 教授)

2026.02.23

中東諸国の経済の現状

 2017年の拙稿「ベトナム中部都市ダナンの可能性」(本コラムNo.907)では,同夏に視察したダナンの発展ぶりを報告した。本稿では,それからちょうど8年後の昨夏,再訪したダナン経済圏の現状を報告する。

 昨年の省市再編により,旧ダナン市と南隣のクアンナム省が合併し,誕生した新ダナン市の面積は以前の約10倍(11,859㎢),人口は約3倍(306万人)となった。同市の投資誘致事業の目玉はベトナムで初の自由貿易区(FTZ)と国際金融センター(IFC)の2つである。

 FTZの設置は,旧ダナン市内の7カ所と旧クアンナム省内の6カ所の計13カ所を計画しており,その投資重点分野は製造業物流,商業サービス,IT新事業・スタートアップの3分野である。IFCについては,ベトナム政府はその設置をダナンとホーチミンの2都市に認可し,新ダナン市は法人減税や個人向けの所得税免税,長期滞在ビザ発行などの措置を提供する見通しだ。

 在ダナンの日本企業関係者へのヒアリングによれば,コロナ禍明け以降,日本企業によるダナン進出の関心分野はIT,サービスなど非製造業が多いという。ダナンは経済規模や生活利便性ではハノイやホーチミンには劣るが,住環境の質の良さがアピールポイントだ。ダナン中心部では熟練人材が非製造業に流れるため,製造企業は人材の奪い合いになりがちだという。製造企業は旧クアンナム省立地の工業団地などへシフトするという,企業立地の棲み分けが進んでいるようだ。

 IT系企業の受け皿としては,市内中心部の行政センターの近辺に立地するソフトウェアパークI(実質は高層ビル1棟)が中小企業群をテナントに抱えている。ここが満杯になったため,行政センターから北に約1.5kmのティエンサ湾岸にソフトウェアパークII(総面積2.8ha)が建設された。2025年3月に開所したばかりで,約25社が入居している(日系企業はいないもよう)。ここの敷地内にダナンIFC事務局が設置されるとの報道があった。

 ダナン市の北西部に立地するダナン・ハイテクパークは,17年の訪問時は敷地を造成段階で進出企業は2社程度にとどまったが,2024年末時点の投資企業は計32件,うち外資が14件。外資の内訳は日本7件,韓国3件,米国2件などとなっている(市投資促進センター資料)。敷地内の東西に延びるメインストリート沿線には日系3社を含み,大きな建屋が5~6見えた。ただし現状で稼働済みなのは10社以内という印象だった。

 ダナンにおけるIT産業の立地を象徴するのがFPT Cityだ。市街地中心部から南約8kmに立地する。「シティー」といっても正式な行政区を指すのではなくFPT社が当局から開発許可を得た土地区画を指す呼び名だ。8年前は高層の建物が少なく,FPT Complexとい円形の建物だけが目立っていたが,現在はその北側にFPT Plazaと称する高層のコンドミニアム群が建っており,新住民が流入しているもようだ。FPT Complexの南側約1kmあるFPT大学には学生街が形成されている。FPT大学にはIT学部(日本語必修),②ビジネス学部(中国語必修),情報学部,外国語学部の4学部があり,外国人留学生を長期・短期合わせて年間1500人規模で受け入れる一方,地元学生を海外のスタディツアーやインターンシップへ多数派遣しているという。インターンの行き先は日本,フィリピン,香港,シンガポールなどが人気で,日本ではIT研修か,ホテル業務が多いとのこと。

 FPT社はこれまで地場ソフトウェア人材を活用する設計部門が主力事業だったが,22年に半導体企業を設立し,昨年,ダナンに「後工程」を担う工場を建設すると発表した。地場企業としては初の半導体生産への参入となる。米中摩擦を背景に,ダナン圏が半導体サプライチェーンに加わる契機となるかもしれない。

 ダナン圏のサービス分野における強みは観光資源だ。8年前に訪れたときと比べ,コロナ禍で中断したものの,観光インフラ整備と投資は順調に進んでいる印象だ。海岸線のビーチには高級ホテルやリゾート施設が建ち並ぶ。

 ティエンサ港とリエンチュウ港(建設中)の中間には22年に千葉県のホテル三日月(三日月グループ)の現地法人が「ダナン三日月ジャパニーズリゾート&スパ」を開業した。300室弱のホテル棟,温泉,プールなどを揃える。ビーチ側に面する広いレストランからは富士山のレプリカが見える。ファミリー向きの「ジャパンテーマパーク」といったところだ。

 ダナン国際空港が市街やビーチから渋滞がなければせいぜい15分という至便なアクセスも大きな強みだ。同空港からは国際便が18路線就航している。今回筆者が使った台北便や,韓国・仁川国際空港への便数が多い。年間旅客取扱容量は1000万人(国内敏600万人,国際便400万人,2023年時点)で,2030年までには年間取扱旅客数2500万人までに拡大する計画だという(市投資促進センター情報)。

 ダナンの外国人観光客は,8年前は圧倒的に韓国人が多い印象だったが,日本からの観光客も増えているようだ。一方で,日本への観光経験をもつベトナム人が増えているせいか,ダナンには日本食店が増えている。市街中心地だけでもSushi,Udon, Donburi, Ramenなどの言葉が看板の一部に入る店が20軒以上ある。ダナン市在住の日本人は600人程度だと聞いたので,これらの日本食店に来る客の大半はベトナム人だろう。所得水準が上がってきたベトナムの都市部で日本食がブレイクしていると思われる。

 ダナン市街から日帰りでアクセス可能な観光地も豊富だ。北方向にはフエ,南方向にホイアンといった歴史観光地があり,西方向にはバーナー・ヒルズというSun World社が開発した高地のテーマパークがある。こうした自然・文化資源を背景に,付加価値の高い産業が集積していけば,ダナンは前稿でも言及した「リバブル国際都市」へ近づくだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4230.html)

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