世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4229
世界経済評論IMPACT No.4229

中東諸国の経済状況とエネルギー政策

武石礼司

(東京国際大学 名誉教授)

2026.02.23

中東諸国の経済の現状

 中東地域には多くの産油・産ガス国があり,これら諸国の経済は,石油とガスの輸出に大きく依存する構造がある。これらの石油とガスの生産国においては,国の収入の殆んどが,石油とガスおよび化石燃料の精製品,化学品等の輸出に依存している。また,売上高の膨大さに比べると少ない人数で石油とガスは生産されている。

 このため,税金が殆んどなく,補助金が国から沢山出ており,教育,医療も無料,多数の国家公務員が雇用されている産油・産ガス国では,国民で「新たに産業を興そう」との意欲が高まらない状況にある。したがい,石油とガスの生産部門に関与しない大多数の国民を,いかにして活性化させ,経済活動の担い手とするかが産油国においては必須の課題である。

 石油とガスの埋蔵量が少ない中東諸国(例えば,ヨルダン,レバノン等)においても,近隣の石油とガスの輸出国の多大の石油・ガス収入の経済的恩恵を受けており,化石燃料の使用が出来るだけ長く続くことを期待する立場にある。

 地球環境問題への対応の点で,上述のように中東諸国は経済が石油とガスの生産と販売に大きく依存しているために,化石燃料の消費を早期に停止すべきという環境派の人々からの要求に対しては,即座に受け入れることはできない状況にある。

サウジアラビアの取り組み

 サウジアラビアは「真の富は石油ではなく,国民の志にある」を掲げ,未来への投資を加速させる「ビジョン2030」を作成している。国民の活動を急速に活発化させ,国外からの投資を促進し,非石油・ガス部門の輸出比率を16%から50%に増やす目標を立てている。例えば,サウジは世界有数の武器輸入国であることから,輸入品を国産化して防衛産業を育てることを掲げている。ただし,裾野産業が未だ育っていない段階から武器輸出国へ至ることは容易ではない。

 サウジ政府が,同国の若者の大きな支持を得ているのが,アニメ,eスポーツなどのソフト面での産業育成である。また,2030年から31年には,サウジの首都のリヤドでの万博開催が決まっている。万博は,テーマを「変化の時代 共に先見性のある明日へ」としており,若者の意欲を引き出す試みをしている。その他,世界初の「ドラゴンボール・パーク」の建設も発表されている。

他の中東諸国の取り組み

 サウジアラビアの経済構造の転換は,直ぐには進まないと見られるが,他の中東諸国に関しては,例えばアラブ首長国連邦(UAE)の場合は,自由貿易地域を作り,輸出入の基地としての利用を促し,輸入額と同時に輸出額が増えており,石油とガスの輸出に依存する比率の引き下げが達成されている。ただし,アブダビ首長国が担う「石油・ガスの輸出がUAE経済の支柱となる役割」は依然として重要である。

 次に,人口が1億人を上回り,豊富な労働力を持つエジプトの経済を見ると,同国では,若干の石油とガスを自国生産しているものの,国内のエネルギー消費量が多く輸入国となっている。労働人口は多いものの,他の近隣国,例えばトルコと比べると製造業の育成という点では劣ってしまっており,農産物,衣料品などが輸出品目の上位となっている。

 サウジアラビアとエジプトを比べた場合に,労働力,気候等から考えても,より工業化が進む可能性が高いと考えられるエジプトにおいてすら,ゆっくりとしか産業育成が進んでいない。従って,サウジアラビアの工業化が達成されるためのハードルはさらに高いと言わざるを得ない。

再生可能エネルギーの導入

 広大な沙漠地域を持つ中東諸国においては,太陽光発電の大量導入用の場所の確保は出来ていると言える。OECDの国際エネルギー機関(IEA)のWorld Energy Outlook 2025年版によると,中東全体で2024年の実績31TWhが2050年で587TWh(現状政策シナリオ),あるいは976TWh(公表政策シナリオ)まで増大する可能性があると予測されている。確かに日本に関して予測される2050年の210TWh(現状政策シナリオ)あるいは260TWh(公表政策シナリオ)を中東全体で上回ると予測されるものの,米国の2050年の1,110~2,004TWhとの予測と比べると半分に止まっている。現在の中東が石油・ガスの生産で見せる存在感と比べると,中東地域の役割低下による「脆弱化」が進む予測が出されている。

中東諸国の将来発展の予測と日本との連携

 IMFの中東産油・産ガス国(GCC)諸国に対する分析データを見ると,GCCの,国家としての貸借対照表では,単年度のGDPの40倍程度の純資産を保有しており,その内訳はGDPの30倍程度の石油・ガス資産の評価額,それに加えて政府系ファンド(SWF)が10年分程度の資金を保有していると分析されている。この積立額が中東産油国の安定感と余裕を生み出していると言える。

 エネルギー輸入国であり,ソフトパワーを持つ工業国の日本は,中東諸国と人材育成,産業育成の面で補完的関係にあり,将来を共に設計してくことができる望ましい関係が存在していると言える。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4229.html)

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