世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2445
世界経済評論IMPACT No.2445

スリランカとアルゼンチン

小浜裕久

(静岡県立大学 名誉教授)

2022.03.07

 「スリランカとアルゼンチン」,妙な比較だと思う読者も多いだろう。もちろん,国土の大きさも違うし,人口も違う。どちらの国も,筆者にとってかなり思い入れのある国で,しかし,よく分からない国なのだ。いろんな所で書いているように(例えば,浅沼・小浜『途上国の旅』勁草書房,2013年),自分の開発経済学の考え方は,「Unfortunately the country is too rich in natural resources」という意味で,アルゼンチンの歴史にも影響を受けていると思う。あれだけ自然資源に恵まれ,優れたエコノミストも多く,ビジネスマンも有能な人が多い国なのに,アルゼンチン経済は,なぜうまく行かないのか。

 スリランカも豊かな国だ。優秀なエコノミストも多い(国外で活躍するエコノミストも多いが)。筆者もこの10年だけでも7,8回行っているだろうか。初めて行ったのは前の世紀でまだ内戦下だった。ある時,コロンボの日本大使館の人と話していて,親しい友人がコロンボ郊外の国際機関にいることを思い出した。会えるかなあと訊いたら,「郊外は内戦で危ないので,いまコロンボのホテルに避難してるから,会えますよ」と言うので彼と会った。「郊外にある国際機関の近くの川が血に染まって,危ないからコロンボに避難してきた」と言っていた。別の機会に,アフリカの帰りだったろうか,別の友人の家に泊めてもらった。彼の家はいわゆる「洋館」で,その写真は,いまも新しい日本大使公邸の玄関ロビーにあると思う。ヒルトン・ホテルのロビーが爆弾テロで100人位の人が死んだ直後だった。その友人は,「俺の車に国旗つけて行けば,中まで入れるから,お前見てこい」というので,爆弾テロの現場を見に行った記憶がある。

 アルゼンチンもスリランカも日本ではマスコミで採り上げられることは少ない。最近では,アルゼンチンが債務危機でIMFと合意したとか,スリランカの対外債務の記事が,ちらほら見える。たとえば,「石油代は「紅茶」で支払い 経済危機のスリランカ,綱渡りの資金繰り」(『毎日新聞』,2022年1月25日)などは印象に残っている。FTThe Economistの方が,よくフォローしていると思うが,スリランカについては,Nikkei Asiaも頑張っているようだ。

 スリランカは,アルゼンチンのような国になるのか,それとも保守的なエコノミストの考える長期的に発展できる国になるのかの岐路に立っていると思う。アルゼンチンのような国というのは,ドル建て国債で資金調達しても,それを100パーセント返す気がはじめからない国のことだ。国際資本市場だけでなく,国際社会からも信認されていない。アルゼンチン人も,手持ちの自国通貨を最小限にして,余った資金はドルなどの外貨に換えてニューヨークの口座に持っている。多くのアルゼンチン人は政府を信用していない。

 大変だし,長い苦しい年月が必要だが,まじめに構造改革を進めていくことが,長期的には国民の幸せをもたらすのである。

 経済発展を考えるとき,短期も中期も長期も大切なことは,冷静に考えれば誰でも分かることだ。しかし,危機に直面すれば,「もうすぐ国の対外債務の利子返済期日が来るのに外貨が足りない」となれば,思考が短期的になることは仕方がないだろう。どうするか,IMFに駆け込むか,中国に借りるか,近隣諸国に頼むか。

 スリランカは,アルゼンチンのように,借金をフルに返す気のない国になるのか,あるいは,自国の港などを担保に外国から緊急に資金を借りるか。IMFに頼むとうるさい条件が付くから嫌だなあという政策担当者の気持ちは理解出来る。しかし1944年のブレトンウッズ会議の精神を思い出してほしい。「History Matters」なのだ。スリランカもIMFと4条協議をしているようだから,IMFの支援を考えているのだろう(IMF Press Release 22/54, March 2, 2022)。3月初めの執筆時点でIMFに金融支援を要請してはいないと思われる(2月10日時点では金融支援を要請してない)。

 スリランカの為替レートを見ると急速に下がっていて,2000年に1ドル77ルピーだったが,2013年には129ルピーにまで減価。今年3月初めでは1ドル203ルピー程度だ。対外債務残高に対する外貨準備額の比率をみると,2010年に33%だったが2012年には20%を切り,2020年には10%にまで低下している。2019年に外貨準備は76億ドルあって輸入の5か月分だったが,20年には57億ドルで輸入の3.1月分,21年は31億ドルで輸入の1.5か月分,22年は22億ドルで輸入のひと月分とIMFは推計している。なんらかの緊急支援がなければ,スリランカがデフォールトに陥るのは不可避だろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2445.html)

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