世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2369
世界経済評論IMPACT No.2369

台湾有事は日本有事,すなわち日米同盟の有事だ!:安倍元総理は演説で何を語ったか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2021.12.20

 12月1日,台湾・国策研究院文教基金会主催の「インパクトフォーラム」に出席した安倍晋三元総理大臣は,「新時代の日台関係」をテーマにオンラインで基調講演を行った。

 講演は大きく3つの内容に分けられる。すなわち,(1)日台の国際環境の位置づけ,如何にして中国に自制を促すか。(2)日本は自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)や日米豪印戦略対話(Quad)などを通じ,中国の自制を求める。(3)日台は厳しい国際情勢および様々な挑戦に直面し,自由で開放された民主主義のフレームワークの中で,緊密に連携し,絶えず努力し,美しい台湾の構築を次の世代に期待する,である。

 講演会の冒頭で安倍元総理は,台湾の環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への参加を「台湾はCPTPPに加盟する条件を備えている」と明確に支持し,加えて国際組織における台湾の発言権の取得についても支持するとした。そのほかに,公共医療,衛生保健,気候変動,航空,通信および国際刑事・犯罪防止などに関する台湾の国際機関への加盟・オブザーバーとしての参加を支持すると強調,これに関して欧米諸国の協力を得る必要があると主張した。これまで台湾のこれらの国際組織への加盟は,中国の反対・阻止で実現していない。「台湾がこれらの組織から排除され続け,今年(2021年)で満50年になる。台湾はこれによく耐えて来た。台湾がこれらの国際組織に加盟できるよう自分もできる能力を尽くして協力したい」と述べた。

 近年,中国は軍備費の予算を拡張し,この30年間で42倍にも増加させた。中国の軍備費は日本の防衛予算の4倍以上である。これからの30年間でも中国は年間7%の軍備費の増加を計画している。今後の30年は東アジアと全世界にとって,リスクが充満する時代と言えよう。このリスクは宇宙やサイバー空間に至るまで広がる。台湾周辺の島嶼の尖閣諸島,先島群島,与那国島などの日本の領土では,既に挑発を受けている。

 安倍元総理は在任中に習近平国家主席と会見するたびに,「尖閣諸島を防衛する日本の決心と意志を見誤るな」と伝えてきた。尖閣諸島,先島群島,与那国島などの離島は台湾からは僅か100キロ圏であり,台湾へのあらゆる武力侵攻は日本国土にとっても大きなリスクであることから,「台湾有事は日本有事だ。すなわち日米同盟の有事でもある」と厳しい口調で断言した。

 日台で民主主義を信仰する人々は,中国の指導者階層に,「断じて見誤るべきでない」と繰り返し呼び掛ける必要がある。「中国が台湾に侵攻した場合,世界経済に深刻な影響を及ぼし,中国自身が深傷を負うことになる」と強調,「軍事的冒険は,中国が経済的自殺の道を歩むことである」と強い姿勢で警告している。

 また,安倍元総理は「インド太平洋地域の核心的な焦点は3つある。1つ目が,自由で開放された航海の自由と法治体制の維持で,基本的な価値の普及と定着を図る。2つ目が,高品質のインフラ建設を通じて,連結性を高め,経済的な繁栄を共に追求すること。3つ目が,海洋法の執行能力の向上支援を含む,平和,安定と共に協力を,志・価値観を同じくする国々,人々と手を携え進めることだ」として,その上で,安倍元総理は,自由と人権を保障する台湾は,日本の利益に一致し,当然,世界の利益にも一致している。普遍的価値を重視する日本から言えば,「台湾こそがキーストン(要石)である」と述べた。

 オンライン講演後,フランス国際放送局は,国策研究院執行長の郭育仁(中山大学教授)にインタービューを行った。その中で郭執行長は「習近平と中国の上層部の誤断防止」という言葉を3回も使った。それは日米の台湾を防衛する決心,東シナ海(尖閣諸島を含む)を防衛する決心の前で,台湾に武力侵攻することが中国にとって経済的自殺に等しいことすることの強調であった。これを繰り返す意味には,中国が情勢誤判の可能性が少なからずあるとの見方が現れている。台湾の関心事は,(1)「台湾有事」への考え。(2)台湾のCPTPP加入に,日本は歓迎の意を示したが,アメリカはTPPに戻らないことを既に表明しており,バイデン政権はインド太平洋における新たな経済フレームワークを構築するもではないか。その場合,台湾の加入は優先的に考えられるのか。(3)台日の経済とハイテク分野の協力に対する中国からの産業スパイ活動の抑制。(4)台日間の釣魚台(尖閣諸島)争議があるが,“大局的見地”から「これを棚上げし共同開発の可能性を探る」ことである。特に釣魚台(尖閣諸島)争議では,国民党や民進党を問わず,同じ態度を堅持しており,国民党の馬英九政権時はこの立場で,2013年の「台日漁業協議」を締結した。その後,民進党の蔡英文政権も同じで考えを有している。「現在,台日は中国による大きな脅威に直面しており,共同でこれを防ぐことが主な出発点である」(郭執行長)。

 講演の同日,中国の華春瑩外務次官補は垂秀夫大使を呼び出して,安倍元総理の発言に厳重に抗議した。これに対し,垂大使は「政府を離れた方の発言の一つ一つについて説明する立場にない」と反論したという。後に松野博一官房長官は垂大使が中国側に「台湾をめぐり日本国内にこうした考え方があることを,中国としては理解する必要がある」,「中国側の一方的な主張については受け入れられない」と反論したと述べた。

 一方,ブリンケン国務長官は12月3日,「中国がここ数年,軍事的挑戦や圧力による現状変更を試みている。端的に言うと,台湾有事は(中国にとつて)破滅的な決断になるだろう」,「(中国による台湾侵攻は)恐ろしい結果をもたらす」と警告し,台湾への軍事的威圧を高める習近平政権を牽制した。また,中国の攻撃に台湾が自衛する十分な能力を確保できるよう,「断固とした関与を続ける」と主張し,安倍元総理の発言とアメリカは同じ立場であると強調し,“援護射撃”を行った。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2369.html)

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