世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2326
世界経済評論IMPACT No.2326

同族企業の国際化と地域とのつながり

竹之内秀行

(上智大学経済学部 教授)

2021.11.01

 一口に企業と言っても,さまざまである。トヨタやホンダのように自動車を製造して販売するメーカーもあれば,吉本興業や太田プロダクションのようにエンターテイメントを提供する会社もある。また,いわゆる大企業もあれば,スタートアップ企業や老舗企業などの小規模企業もある。さまざまなタイプの企業があるわけだが,日本の特徴の1つとして,同族企業の割合の高さがある。2018年度の国税庁「会社標本調査」によれば,日本企業の98.3%が同族企業である。

 こうした同族企業に焦点をあてた研究が,近年積極的に行われつつある。中でも,ヨーロッパ,特にスペインやイタリアでの研究蓄積が多い。これらの研究蓄積の中でも,ユニークなのが社会情緒的理論に基づいた研究である。社会情緒的理論の主張の骨子は,①同族企業では社会情緒的資産が意思決定の重要な準拠点となる,②そのため,同族企業は時として経済的な目標だけでなく,非経済的目標を追求する傾向がある,というものである。社会情緒的資産の次元は複数あるが,そのうちの1つに「強い社会的つながり」という次元がある。すなわち,同族企業は,地域社会と強い関係を築く傾向があり,そうした特性は同族企業の強みともなっているのである。

 前置きが長くなったが,同族企業の特徴の1つに「強い社会的つながり」があり,それは同族企業の強みともなっているのである。しかし,この強みゆえに,同族企業は非同族企業と比べて国際化を進める傾向が弱い。その理由として,海外への拠点のシフトにともない,地域における雇用や取引関係へ与える影響が考えられる。地域における雇用や取引の問題は,「強い社会的つながり」を特徴とする同族企業にとって重要なものであり,その強みゆえに国際化が進まないのである。

 しかし,同族企業の中にも積極的に国際化を進める企業もある。おそらく,何らかの条件が整えば,こうした問題を克服することが可能なのであろう。その1つに,積極的な社会貢献活動がある。たとえば,地域社会における教育問題の解決へ協力したり,地域社会へ寄付を行うのである。実際に,同族企業の中には,積極的に奨学金を設立している企業もあれば,病院へのベットの寄贈や病棟設立へ積極的に寄付を行っている企業がある。つまり,社会貢献活動を行うことで,社会情緒的資産をある一定水準以上に維持することに努めるのである。

 以上のように,同族企業は社会情緒的資産を強みとしながら事業を営むと同時に,その制約を受けながら事業を展開しているのである。そう考えると,同族企業にとって社会情緒的資産をどのように捉え,社会情緒的資産といかに向き合いっていくのかが,とても重要な経営課題と言えるだろう。

[参考文献]
  • Gomez-Mejia, L. R., Haynes, K., Nuñez-Nickel, M., Jacobson, K. J. L., Moyano-Fuentes, J., “Socioemotional wealth and business risks in family-controlled firms: Evidence from Spanish olive oil mills,” Administrative Science Quarterly, 52: 106-137, 2007.
  • Pongelli, C., Caroli, M. G., and Cucculelli, M., “Family business going abroad: the effect of family ownership on foreign market entry mode decisions,” Small Business Economics, 47: 787-801, 2016.
  • Debellis, F., Rondi, E., Plakoyiannaki, E., De Massis, A., “Riding the waves of family firm internationalization: A systematic literature review, integrative framework, and research agenda,” Journal of World Business, 56(1), 2021.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2326.html)

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