世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2274
世界経済評論IMPACT No.2274

コロナ禍は都市経済を揺さぶる

瀬藤澄彦

(帝京大学 元教授)

2021.09.06

 ジャック・アタリは近著『命の経済』(L’économie de la vie)においてコロナ禍の早期収束論を戒め他者の命に国富のウェートを置く考えを指摘。中国の大都市武漢発のコロナ禍は都市次元で考えることが緊喫の課題であることを示唆する。グローバル化の繁栄を支えていたメトロポール都市主導型の資本主義経済にはトンネルの出口が見えない。本稿はコロナ禍によって都市から地方への人口移動は生じているのかを日米欧でその実態に迫る。コロナ禍は都市集積に反省を迫り都市と農村,経営と労働についての関係を打破する転換点になるかもしれないが,結論的にはコロナ禍発生から2年近く経過した現在,日米欧では過度な都市衰退論の動きは失速している。

 日本では東京首都圏(1都7県)から地方圏への人口移動はコロナ禍発生以降でも,総務省の住民台帳報告によれば2020年4月1日の緊急事態宣言から1年以上経過したが,顕著な人口流出は認められない。コロナ禍において人口移動には次の3段階が想定されていた。①現在居住地でのテレワーク環境の整備,②都心部から郊外の広い住居への移転,③地方への移住,である。現在の日本は第2段階にある。都心部からの人口移動は今後,郊外型か地方型か注視していく必要がある。日本の経済空間は人口と産業立地の都市集中,そして大都市圏と地方圏の格差拡大に特徴づけられてきた。大都市圏では,①本社の東京圏への一極集中,②地方拠点都市への集中,③地域間の格差が重層的であること,などが顕著であった。東京首都圏だけが日本の経済成長を牽引する「富士山型」の成長モデルから各地域の経済力の底上げを期待する「八ヶ岳型」成長モデルへの転換が「地方創生」として重点国土政策で叫ばれてきた。しかし外国人観光依存の「外需」主導型だった「地方創生」ブームは挫折した。コロナ禍は都市から農村地方への人口移動には繋がらなかった。

 フランスのパリ首都圏(イル・ド・フランス州)につきパリ高等経営経済学大学院(ESSEC)が1868人に2021年4月21~30日に実施したテレワークのアンケートによると,約26%の企業が最初の都市封鎖の時にテレワークによる在宅勤務を導入した。テレワーク型業種が集中するパリ首都圏では情報通信部門で4分の3の企業がテレワーク労働に移行,その内,約30%の企業はこれを制度化した。フランスの地方全体を見ると,ポスト・パンデミクを見据えて職場と住居のあり方を見直そう考え方が多くなり転居まで考えている人は44%にも上る。これはフランスの大都市すべてに見られる傾向である。南仏のエクサン・プロバンスやボルドーでは52%,56%となっている。転居を希望するのは地位や雇用条件によって左右されるが,年齢が若いほど転居を望む傾向がある。パリ首都圏では18~26才で64%,27~40才で55%,41~56才のベビーブーマー世代後継X世代で40%,団塊世代57~76才で21%となっている。退職組の転居は少ない。住宅の種類や広さという点では,マンション住まいの人で56%,一軒家で31~32%と差がある。居住面積が50㎡未満では66%,120㎡では21%と差が広がる。転居希望はテレワーク適応組ほど少なく,テレワーク適応が遅れる女性や,若い世代,非管理職層ほど転居希望が多くなっているが,テレワークに不都合な感覚も持った人は職場に復帰したいという思いが強くなる。また職場において個室で仕事をする人は,フレックス・オフィスやコワーキングの勤務の人に比し転居希望は少ない。また自営業従事の人は会社勤務や公務員よりも転居を望む傾向がある。転居の希望対象地域は現在の勤務地域圏を挙げる人が多い。これはライフスタイルそのものを根本的に変えることを誰も望んでいないことを表れである。コロナ後転居して住んでみたい地域としては,パリ首都圏が46%で,次いでプロバンス・コートダジュール州,ヌーベル・アキテーヌ州,ブルターニュ州,ノルマンディー州や,サントル・バル・ド・ロワール州という順番になっている。英国ではコロナが襲って来た時,ほとんどすべての都市は厳しい都市封鎖によって機能停止に追い込まれた。都市からの人口流出が続いていけば都市の将来が危うくなる。人生で初めてオフィスの束縛を離れて都心のマンションを離れて自然のある農村部に避難することを多くの欧州の人々は真剣に考え始めた。ロンドンでは都市そのものをもっと自然との接点で意識するような都会とすることを憧れである。米国では都市脱出の傾向はニューヨークの人々が自分のセカンドハウスに,シリコン・バレーのエンジニアは田舎に移住する動きは顕著であった。一般的に欧州では場所にこだわるということが昔から米国よりも遥かに強く,たとえ衰退都市でさえも人口縮小は比較的少ない。実際,コロナ禍を契機に多くの欧州の都市では歩道,自転車レーン,緑地などをさらに充実させるなどして都心部地域の再活性化に熱心になったことが注目される。パリではイダルゴ市長が車排除,歩行者優先など環境政党顔負けの政策を打ち出し,イタリアのミラノはコロナ禍発生時には都市封鎖で深刻な影響を受けたが,この街では道路のパークレット化や自転車レーンを設ける動きがとくに活発である。ロンドンでも「ストリート・スぺイス」と呼ぶ同様なプロジェクトが取り組まれ自転車レーンや歩道空間を拡げている。これらはひとびとが混雑した地下鉄やバスなどの公共交通機関における感染リスクを避けるために乗車を避けるようになったための対策である。パリやバルセロナでも同じような対策が取られている。パンデミクで都市脱出をした人の数を把握するのは正確には難しいが,2020年1年間で英国ロンドンでは70万人と言われるが,この中にはBrexitによって英国を離れた外国人労働者も含まれているのでコロナ禍による正確な転出数ではない。しかしArup研究所によるとロンドン住民の41%が何らかの形でロンドンを出て行ったが,この数字はマドリード,ミラノ,ベルリンの約10%や,パリの20%をかなり上回っている。不動産企業センチュリー21はパリではパリ脱出のピークがあったが,それは集団的な脱出にまでは繋がらなかった。米国では都心部の空白地帯化やリモートワークが大きな話題になったが,都市脱出は起きなかった。米国の50都市の調査では保養地のフロリダ州やテキサス州などへの人口移動ではなく84%の人が州内の同じ居住区域の近くであった。米国census Bureau統計によると20年3月から21年2月までに引越しをした人はわずか3%に過ぎなかった。

[参考文献]
  • Grand Paris : le télétravail ne devrait conduire qu’à un exode urbain très limité  July 28, 2021 4.21am AEST
  • To top 50 metro area” represents moving to another one of the most populated metros.  Source: USPS, U.S. Census Bureau
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2274.html)

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