世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2214
世界経済評論IMPACT No.2214

半導体不足は2023年まで続くのか?

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2021.07.05

 世界最大のファウンドリーTSMC(台湾積体電路製造)の魏哲家CEO(最高経営責任者)は2021年第1四半期の決算発表の席上で,半導体の不足は2022年末から2023年までに続くであろうと発表した。仮に顧客から1万個のICチップを受注しても,6000~7000個のICチップしか納入できず,来年(2022年)一年間の受注能力は既に満杯で,この状況は2023年までに続くとして,深刻な半導体の不足を指摘している。

半導体不足の背景

 その主な理由は次の4点である。

 ⑴コロナ禍のステイホームでのリモートワーク,動画・ゲームによるパソコン,タブレット端末の需要の増加,5Gへの移行によるスマートフォンの需要増加などにより搭載する半導体の需要が大幅に増えた。加えて5G移行へ対応する基地局の増設があげられる。

 また,アップルの最新先端パソコンMac Book搭載のM-1チップとM―2チップは,アップルの設計,ARMのプラットフォーム,TSMCの製造によるパソコン初の5nm SoC(System on a Chip=システムLSI)チップである。過去において,アップルはインテルからCPUを調達したが,この最新鋭Mac Bookから自社設計,TSMC製造のチップに転換したのである。これも半導体製造企業の生産ラインがフル稼働になった原因の1つであろう。

 自動車産業の半導体需要予測にも狂いがあった。コロナ禍で自動車産業は不況と予測し,車載半導体の受注を減らした。2020年後半になり,自動車の需要が回復したが,多くの部品調達の手当てをせず,半導体不足に気付いたときには既に遅く,多くの国で自動車製造工場の操業停止に陥った。

 ⑵米中貿易戦争による対中関税の引き上げによって,パソコンやスマホのサプライチェーンを中国から東南アジア(ベトナムなど)や南アジア(インドなど)へ大きな移動が見られた。それに伴い,企業は在庫を増やして対応した。世界のデジタル化の加速も,半導体の需要を大幅に引き上げた。

 半導体関係の部品注文から引き渡し迄の期間を以下にまとめた(参考用で実際とのズレがある)。

 ①MLCC(積層セラミックキャパシタ):日本企業の市場シェアが最も高い。村田製作所は112~180日,太陽誘電は112~150日。②ファウンドリー:3~6カ月。③IC封止め:3~6カ月。④MCU(メモリコントローラ):24~52週間。⑤CPU(中央演算処理装置):12~24週間。⑥ネットIC:40~52週間。⑦パネル:16~24週間。⑧PCB(プリント基板):10~16週間。⑨電源IC:24~52週間。同じく半導体関連であるが,それぞれの部品の製造期間が異なっていることがわかる。

 この半導体不足の混乱から,業界の「安全在庫(safety stock)に対する定義」の考えが変わった。過去において在庫をもたない,必要時に部品企業から調達する「トヨタ生産方式(TPS)」がベストという考えが大きく変化した。また,注文しても必要とする半導体が確保できないため,オーバーブッキング(過剰予約)も頻繁に発生するようになった。言わば逆TPSへのシフトである。

 ⑶中国は積極的に半導体の在庫分を増やしている。その具体例として,華為(ファーウェイ)の5G対応「Ment40」に搭載したKirin9000のICチップは,TSMC製造の5nmのSoCを使用している。ところが,華為はトランプ政権からエンティティリストに指定され,2020年9月15日以降,TSMCは華為に半導体を供給することができなくなった。華為が採用した方策は,2020年9月14日以前,億単位のKirin9000用チップ生産をTSMCに委託し,今後1~2年分の在庫確保に動いた。

 また,ファウンドリー業界の世界第5位の中芯国際(SMIC,市場シェア5%)は,解放軍に半導体チップを提供しているためエンティティリストに指定され,西側諸国は中芯国際から半導体を調達することができなくなった。このためもともと不足していた半導体の供給がさらにタイトになった。

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(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2214.html)

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